男たちの介護――(1) 50年間連れ添った妻が脳腫瘍に 突然始まった介護

心身ともに限界を感じ

自転車を点検した。妻が言った不具合は見つからない。買い物から帰ってきた妻からこう頼まれたのだ。「帰り道、ハンドルがグラグラしたから見てほしい」。ハンドル部分をもう一度調べてみたが、やはり異常は見つからなかった。「おーい、大丈夫だぞ」「おかしいわね。グラグラしたんだけど」。平成24年12月、東海地方に暮らす山田房雄さん(81)と、1歳年下の妻・ユキさんとのやりとりである。この些細(ささい)な出来事が、なぜか房雄さんの心に焼きついた。

その1カ月後、ユキさんはけいれんを起こし倒れる。救急車で名古屋市内の病院に運ばれ、緊急の検査を受け、そのまま入院。診察室で房雄さんは、医師からこう告げられた。「脳腫瘍です」。心が一瞬にして凍りついたようだった。

脳腫瘍は、頭蓋骨の内側や脳を取り巻く組織にできる腫瘍の総称で、初期には、頭痛のほか、けいれんや吐き気が起こるといわれている。ユキさんは以前から、慢性的な頭痛に悩まされていた。自転車の件も症状の一つだと医師から教えられた。〈もっと早く病院に行くことを勧めていれば……〉。後悔の念が湧いてくる。バスと電車を乗り継いで約1時間、一日も欠かさず病院に通った。

結婚して50年、思ってもみなかった生活が始まった。それまで、家事は全て妻任せだった。みそ汁を作ったことも、洗濯物を干したことも、掃除機をかけたこともない。慣れない家事をなんとか済ませ、病院に駆けつける。無我夢中だった。ユキさんが一時退院した2月、介護の申請を行った。要支援2だったが、ユキさんの状態は介護を受けるほどではなかった。