国際会合「平和のためのAI倫理」 宗教者、研究者、AI開発企業が手を携え
市民がAIを善導する
IBMシニア・バイス・プレジデント ダリオ・ギル氏
AIは、これまでに地球上で公開されたあらゆる情報を取り込み、進化を続けています。いわば「思考するタイムカプセル」です。
1939年、ニューヨーク万国博覧会の開催を記念してタイムカプセルが埋められました。開封されるのは5000年後。当初は誰も知らない場所に隠すことも検討されましたが、ニューヨークに歴史的建造物が多数現存していることに着想を得た主催者は、タイムカプセルを万博会場の地下に埋めました。隠すのではなく、ニューヨークという都市の住民が語り継ぐと信じたのです。
この話には、AIの技術を安全に保つための教訓があります。政府、企業、研究機関、宗教といったあらゆる属性を超え、AIを取り巻く全ての人が「都市の住民」として開発に関わることです。
AIは、一部の人間によって秘密裏に開発されるにはあまりに重要なテクノロジーです。一部の企業しかインターネットを自由に使えない、人間の全ての遺伝情報(ゲノム)を利用する権利を一部の企業に独占される……そんな世の中を想像してみてください。現実はそうなりませんでしたが、そんな未来が実際に訪れたかもしれないのです。インターネットやゲノムのように、AIによる恩恵も、全人類が享受すべきだと考えます。
AIは現在、医療、法律、金融などの広い分野で活用されていますが、専門家がAIを訓練すると、そうでないものよりも優れるという研究結果が明らかになりました。もはや、AI開発は技術的な問題の先が重要になってきているのです。ただし、AIのプログラムを組むエンジニアは各分野の専門家ではありません。ですから、エンジニアではない、専門性に長(た)けた人々の関与が求められているのです。
人間は利己的で、過ちを犯しやすい生き物です。だからこそ、人は他者と出会い、学び、成功と失敗を繰り返して成長し、より人に優しくなろうという思いが芽生えます。人が社会をつくり、社会が人を育んでいるとも言えましょう。
私はAIの可能性を信じています。それは、社会がAIを善導すると考えているからです。つまり、その社会を構成する人――人類の力を信じているからです。