国際会合「平和のためのAI倫理」 宗教者、研究者、AI開発企業が手を携え

共通善の上で語り合いを
WCRP/RfP日本委理事長、浄土宗心光院住職 戸松義晴師

戸松義晴師

本来、科学技術に善悪の概念はなく、利用する側の心一つで、人間の生活を便利にする道具にもなれば、原子爆弾のような命を奪う兵器にもなってしまいます。今会合のテーマである生成AIは、自ら答えを探して学習するため、虐殺や戦争といった人類の過ちをデータとして記録させれば、正しい選択はできるでしょう。しかし、人間が利用する以上、効率性や利便性を追求する方向に進む可能性も大いにあると言えます。

私たちはこれまでフィジカルな領域を削減し、科学による利便性を享受してきました。昔は箒(ほうき)で掃いていたのが掃除機に代わり、移動も徒歩から電車や自動車になりました。今日のセッションの中で技術者や学者の方から「人間が機械化されるのか、機械を人間化するのか」という問いが語られましたが、宗教者としては、人間とは何かという根源的な問いを突きつけられたように感じます。

宗教といっても伝統や教義、時代的背景によって異なりますが、私は、「人間のウェルビーイング」という共通の目的(共通善)の上で、協力ができると確信しています。平和や非暴力を訴えながらも実際には世界中で暴力が続いている現状を見ると、宗教者の力は強いとは言えません。しかし、私たちは決して諦めるべきではないし、たとえ非合理的であっても、“やってはいけないこと”を人類共通の価値観として、宗教者は発信し続けなければならない。そうした意味で、今日、日本からAI倫理についてのメッセージが発信されることは非常に大事なことです。

とはいえ、社会は宗教者だけで動いているわけではありません。今後、AI倫理を考える上で、研究者や学者、企業人など異なる分野の方たちと、多様な視点からさまざまな価値観を共有し、意見を交わすことが重要だと思います。さらに大事なのは、さまざまな分野の話を知識として学ぶだけではなく、それを基にいかに行動するか。それが今回の会合の意義であると私は思います。日本の宗教界として「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」(ローマコール)に署名するのも行動の第一歩です。

そして今後は、ローマコールを踏まえて採択した「広島アピール」を、会合に参加した各教団がしっかり受けとめ、会員信徒一人ひとりが自分事として捉えていけるよう、足元レベルでの語り合いを続けていきたいと思います。

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