誰も一人では救われない――コロナ後の世界に向け教皇が新回勅(1) 海外通信・バチカン支局

聖フランシスコの墓前で、新回勅に署名するローマ教皇フランシスコ(バチカンメディア提供)

ローマ教皇フランシスコは10月3日、イタリア中央アッシジにある聖フランシスコの墓前で、『すべての兄弟たち 友愛と社会的友情に関して』と題する新回勅(235ページ)に署名した。この中で教皇は、新回勅の執筆中に発生した新型コロナウイルスの世界的大流行と世界レベルでの医療危機が、“誰も一人で救われることはない”という事実を示したと説明。「“皆が兄弟”として人類一家族を夢見る時の到来を告げている」という確信を表明している。

教皇はここ数カ月間、同ウイルス流行後の世界について、たびたび発言してきた。世界は元に戻ることはなく、良くなるか、悪くなるかのいずれかだ、と繰り返し警告していた。今回の新回勅は世界がより良い方向へ進むために、「世界に友愛と社会的友情の希求を促すこと」が目的とされる。日常生活におけるさまざまな関係から、社会、政治、諸制度において、より正義に適(かな)い、兄弟愛や友愛に満ちた社会を構築していこうと望む人たちにとって理想とすべきことは何か、それを具体的に実践する方法はいかにあるべきかといった問いに答えたものだ。

その問いに対し教皇は、教義を押し付けることによって弁証法的な論争を展開しても答えは出ないと説明。神の愛を伝えて友愛に満ちた社会を構築していく夢を湧き立たせる肥沃(ひよく)なる祖師として「(アッシジの)貧者」、つまり聖フランシスコと、「誰もが、唯一の創造主の子であるがゆえに、皆が人類一家族の構成員であり、同じ船に乗っている」という世界観を示し、友愛の必要性を説いた「人類の友愛に関する文書」が、道しるべになると示す。同文書は、昨年2月にアラブ首長国連邦(UAE)アブダビで教皇とイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長が署名したものだ。

さらに、友愛は「より良き政治」が行われて具現化されると説く。経済的利益の追求のみに縛られて従うのではなく、共通善(公共の利益)に努め、あらゆる人の尊厳が守られ、各人の可能性が発揮できるように、全ての人に健全な雇用を提供することが核心となると強調する。それは、自国第一主義を唱えて、世界の人と人、国と国とを分断するポピュリズム(大衆扇動主義)とはほど遠いもので、「基本的人権の侵害に対する解決策を見いだし、究極的に飢餓や人身取引を廃絶していく政治」である。「より正義に適った世界」へは、「全ての人を巻き込む、“職人の手業”のような平和構築の促進が求められる」とし、「真理につながる平和と和解は“実践的”でなければならず、対話と相互発展の名の下に正義を追求してこそ実現される」と説いた。

この視点から教皇は、戦争は全ての権利を否定するものだと非難し、「正戦論」をも認めない。特に大量破壊兵器である核兵器、化学兵器、細菌兵器は、無辜(むこ)の人たちを犠牲にするものだからだ。死刑制度に対しても「受容できない」との立場を示した。