創刊70周年【一般財団法人日本総合研究所会長・寺島実郎さん】叡智を求め人類が生み出した宗教を伝えるメディアの役割

『人間と宗教あるいは日本人の心の基軸』著者・寺島実郎氏

昭和31年に創刊された「佼成新聞」は、立正佼成会の機関紙として布教活動の一翼を担い、会員の手から手へと届けられながら、広く親しまれてきた。一方で、社会とつながり、時代とともに歩みを重ねてきた宗教メディアとしての歴史を持つ。評論家の寺島実郎氏に、宗教と人類との関係や宗教メディアが現代社会で果たすべき役割について聞いた。

神仏の気配を感じるとき

――メディアや書籍、講演会などを通じて政治・経済だけでなく、宗教に関するさまざまな課題などについても発信される寺島さんの知見は、どのようにして積み重ねられているのでしょうか?

私の活動の土台となるのは、「現場でのフィールドワークと文献研究」です。世界の現場に立って考えたり、刺激を受けたり、疑問に思ったりしたことを文献でフォローアップしています。

実際に、宗教を論じる際には、イエス・キリストの刑場があるゴルゴダの丘や、真言密教の最高位を極めた空海(弘法大師)が行を積んだ高野山・奥之院への道など、100カ国を超す聖地でのフィールドワークと文献研究の二つを往復する中で積み上げた「人間と宗教についての考察」を集約しながら、宗教に関する物事を総体的に考える「全体知」を求める試みを続けてきました。

思い返せば、私が宗教と真剣に向き合ったきっかけは、1979年に起きた「イラン革命」(イスラム革命)でした。

その頃、商社マンとしてイランでの巨大石油化学コンビナート事業に携わる中でイスラム革命に直面し、イランの革命政府と向き合いながら課題解決に向けて腐心していました。その矢先にイラン・イラク戦争が始まり、イラク空軍機にコンビナートの建設現場が20回以上も爆撃される事態が勃発。エネルギー資源小国である日本の、成長基盤を支える要となるプロジェクトのクライシスマネジメント(危機管理)を余儀なくされたのです。

それから約10年間、中東・イラン問題の専門家を訪ね、情報収集しては文献を読み漁(あさ)り、欧米やイスラエル、湾岸産油国の人々と向き合ううちに、ユダヤ教やキリスト教、イスラム教(イスラーム)といった中東一神教の理解が不可欠と感じました。なぜなら、世界で宗教の影響は大きく、ビジネスのために本気で意思疎通するには相手の思考回路と精神性を深く理解する必要があったからです。

一方、私自身の人間性や信仰観も相手から問われ続けたことで、「日本人の精神性とは何か」についても問い返すことになり、最終的に自分自身の心の基軸を再考する機会にもなりました。

――宗教に関する全体知の探求で印象に残っていることは何でしょうか?

世界中の多くの宗教者や信仰者に出会った体験による直感ですが、キリスト教やイスラム教、仏教のような世界宗教の本質は、他者への配慮や心の寛(ひろ)さを表す利他愛だといえます。それが人間の内面的価値に訴え、民族を超えて受容される素地になっています。

立正佼成会は、庭野日敬開祖が法華経に帰依して始まり、現在は、庭野日鑛会長と庭野光祥次代会長を中心にして世界の平和と個人の幸福を掲げ、他の主要な教団と同様に布教を展開する教団と捉えています。光祥次代会長とは、これまでに何度も宗教などについて語り合う機会を頂き、高い共感力と深い愛情のある方だと受けとめています。コロナ禍の2020年6月には、大聖堂での「壮年(ダーナ)総会」で講演する機会を得て、佼成新聞を通じて報道されたことが印象に残っています。

仏教について触れると、その開祖たるブッダ(釈尊)が最期に説いたとされる「自燈明、法燈明」、すなわち、「自分自身を拠り所として生きよ、ブッダの教え(法)を拠り所として生きよ」という教えは、真摯(しんし)に自らの心の内奥を見つめることで、心の制御に向かいながら欲望や苦悩からの解放を説いています。

そして、ブッダの入滅から約500年後、それまで「救い」の思想を拒否していた仏教が、時代の要請に合わせて「衆生の救済」に向かい、大乗仏教へと進化します。その時期に成立した法華経は、ブッダの生涯のうち最後の8年間の教えが集約された経典です。ある時、親交のある識者と議論を交わした中から、「法華経の中には全てのいのちの平等と、全ての人間の尊厳を謳歌(おうか)する思想が重く存在する」と気づいたことも思い出されます。

私自身は特定の宗教に帰依していませんが、神仏の気配を感じ、何か大きな意思が自分を見つめているという「意識」が常に心の中にあります。

「無宗教者の宗教性」というものも確かにあると思い、大切にしています。この「意識」は、宗教と置き換えても良いのかもしれませんが、私に限らず、全ての人間が本能的に具(そな)えていて、生きる上で非常に重要な要素だと考えています。

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