風雲急を告げる朝鮮半島とキリスト教(海外通信・バチカン支局)

北朝鮮は6月16日、同国南西部の開城(ケソン)工業団地にある南北共同連絡事務所を爆破した。開城工業団地は南北の経済協力が行われてきた場所で、翌17日には、同団地と金剛山(クムガンサン)観光地区に部隊を派遣するとの軍事行動計画を公表した。

こうした北朝鮮による一方的な強硬策は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権発足以来、南北関係を最悪の状況へと追い込み、金錬鉄(キム・ヨンチョル)統一相は関係悪化の責任を取り辞任した。

イタリアの権威ある民間シンクタンク「国際政治学研究所」(ISPI)は、緊張が高まる朝鮮半島の状況を「加熱する38度線」と評し、「北朝鮮に対する経済制裁の緩和が実現されなかった」ことが北朝鮮の強行の原因であると考察した。

「朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は、トランプ米大統領や文大統領との交渉に応じる姿勢を見せていたが、経済制裁の緩和に向けた結果をもたらさなかった」ことに不満を募らせていると分析。「北朝鮮は、主要な貿易国である中国とロシアとの通商が新型コロナウイルスのために停滞し、外貨不足に陥っている」という切迫した国情にあるとの見方を示した。

また、北朝鮮では同ウイルスの感染が農村地帯へと拡大しており、北朝鮮は韓国政府に対して、経済制裁の緩和に関する米国との交渉や、南北間での通商プロジェクトの実行が進まないことへの不満の表れとも伝えている。

世界教会協議会(WCC)のイオアン・サウカ暫定総幹事は17日、南北共同連絡事務所の爆破に対して「警鐘と戸惑い」を表す声明文を公表した。その中で、「WCCは30年以上にわたり、北朝鮮と韓国の両国民間で、出会いと対話を促進するために努力し、朝鮮半島における紛争と分割に終止符を打つ取り組みを推進してきた」と説明。「2018年に南北和解への強い希望(北朝鮮、米国、韓国間での交渉)が湧き上がり、そして朝鮮戦争(1950~53年)の開戦から70周年という節目が迫っている今、昨日の出来事(共同連絡事務所の爆破)は、失望を招き、危機を増幅させた」との思いを寄せた。

加えて、北朝鮮と韓国に影響力を持つ全てのパートナーがさらなる緊張の増大に歯止めをかけ、両国が再び対話のテーブルに着き、「緊張緩和と信頼醸成の構築に向けて一歩一歩地道な忍耐ある取り組みが継続されていくように」と訴えている。

WCCは今年、韓国キリスト教教会協議会(NCCK)と協力し、「われわれは祈る、平和を今、戦争に終止符を」と呼び掛け、朝鮮半島の和平を祈る世界キャンペーンを展開。22日には朝鮮戦争が勃発して70周年を迎え、オンラインのイベントを企画し、「キリスト教諸教会からの平和メッセージ」を発表した。

一方、韓国カトリック教会の兪興植(ユ・フンシク)司教(大田=テジョン=教区)は、「北朝鮮も新型コロナウイルスに襲われ、中国との国境閉鎖によって国民は苦しんでいる。国内経済は深刻な影響を受けている」と指摘。「私たち(北朝鮮国民と韓国国民)は兄弟姉妹であり、同じ言語と歴史を有する。朝鮮半島の周辺国と国際社会は、私たち当事者の間で問題を解決できるようにしてほしい」と述べ、両国民間の交渉を中心に朝鮮半島の和平への取り組みが展開されることを願った。

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