大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(11) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

画・ありお

『男女(生物学的性)の不均衡さとの向き合い方』

私たちソウレッジは、生物学的性の分類による男女の性に関するリスクの不均衡さを、社会の仕組みを変えることで可能な限り均衡に近づけていきたいと考えています。

まず、妊娠、出産、中絶などが全て女性の身体で行われる以上、男女「二人の」子どもであっても精神的、肉体的にかかる負荷に大きな差が出てしまうのは避けられません。例えば、男性は性行為後、その行為の結果を相手から聞くしか知るすべがありません。子どもが宿っても、男性に身体的な変化は全く起こらないからです。また、妊娠したと知った後に、パートナーと子どもから逃げることも物理的に可能です(実際に逃げる人がほんの一握りだとしても、やろうと思えばできる、という状態であることが精神に余裕を与えると考えます)。

一方女性は、妊娠をすると身体にあらゆる変化が起こります。そして、お腹(なか)にいる子どもから逃げることは物理的に不可能です。また、自分の行動が子どもの命に関わっている、というプレッシャーは計り知れません。

加えて、妊娠を望まない男女の間に子どもができた時、学業やキャリアを諦めざるを得ないのも女性が多いですし、緊急避妊薬を使ったり、中絶したり、さらにどうしていいか分からないまま産まれてしまった子どもを遺棄してしまった場合も、女性のみが「自業自得」「身勝手」「人殺し」と責められることが少なくありません。

妊娠に至る性行為は男女が対になって行われるものなのに、リスクも非難も女性側に偏っているのが現状です。

妊娠を100%コントロールする方法はありません。また、人は自分の思い描くような強い意志ではなかなか生きられないものですし、判断が正しくないことだってあります。「昨日は飲み過ぎちゃった」「言い過ぎちゃった」という感覚に近くて、「その場の流れでしちゃった」「はっきり言えなかった」ということもあるでしょう。イレギュラーや間違いも起きます。そのため、望まない妊娠を未然に防ぐような教育だけでなく、妊娠をした、してしまった後に生じる問題に深くのみ込まれてしまったり、人生の選択を狭められたりしないための制度を整えていかなくてはならないのです。

最近、こども家庭庁が特定妊婦への支援を発表しましたが、産まないという選択への支援はほとんどありません。しかしながら、学生の女の子が、学校を辞めたくない、進学したい、自分の夢を叶(かな)えたいと思い、緊急避妊薬を飲むことや中絶を選択することは、産むという選択よりも蔑(ないがし)ろにされていいものなのでしょうか。産むも産まないも同様に支持、支援されるべきなのではないでしょうか。

海外のある国では、緊急避妊薬や中絶を無償化するなど、金銭的な負担を理由に人生を諦めなくていい制度があります。

他にも、出産をした時に、父親と思われる男性にDNA鑑定や裁判所への申請などで認知を求めることや、養育費を支払わない場合は強制的に給与から天引きするといった制度、金融資産の差し押さえ、運転免許証やパスポートの取り消しまで行う制度を設けている国もあります。こうした国の制度によって、子どもが宿った時に女性だけに不安や負担を背負わせない環境を整えているのです。

緊急避妊薬を飲むことや、中絶をするという選択が外部要因によって阻まれることのない社会ができれば、女性はより主体的に人生を選択して生きていくことができます。また、女性が妊娠した時、男性の責任を追及する社会ができれば、コンドームをつけない、あるいは最初はつけていたのに勝手に外して性行為を続ける(ステルシング)といった無責任な行動は減るでしょう。また、正しいコンドームの使い方も男女共に覚えるはずです。そして、万が一相手の男性が逃げ出したとしても、何かしらの形で子育てに責任を持つ社会の制度があれば、女性が一人で抱えずに済み、不安が少しでも軽くなり、子どもを遺棄せざるを得なかったというような事件も少なくなるのではないでしょうか。

ソウレッジでは、男性にも自分事として、社会を変える仲間として参画していただき、誰もが主体的に自分の人生を選択することができる日本に変えていけたらと考えています。

プロフィル

つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。