大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(4) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

画・一般社団法人ソウレッジ

『性教育のメリット(性犯罪の被害・加害・傍観者にならない)』

性教育は、被害者にならないためだけに必要だと思われていることがありますが、実際はそうではありません。加害者を生み出さないためにこそ必要なものです。

一般的に「性犯罪」と聞くと、いわゆる「知らない人からのレイプ」を想像する人が多いですが、知り合いからの被害が9割近くあります(令和2年度に、全国の男女5000人を対象に内閣府が行った「男女間における暴力に関する調査」)。無差別な性犯罪は全体の1割程度です。

知人から受ける性暴力には、相手の勘違いから生じていることもあります。「自分の中では相手を傷つける行為だと思っていなかったことが、実は性暴力だった」「自分にとっては同意が取れていると思っていた(例えば笑顔で話しかけてくれたことを性行為への同意だと思った)」「性行為に同意したので、避妊具のない性行為も大丈夫かと勘違いした」などが、現実にはあるということです。

このようなことから、「性犯罪」についての定義の曖昧さや、同意の捉え方などを社会のルールとして厳密に決めていないことへの弊害を感じます。

性行為の問題はこれだけではありません。日本で使われることが最も多い避妊法は、男性主導のコンドームです。自分の人生が大きく変わってしまわないように、本来は女性が自ら選択できる避妊方法を備える必要があります。

厚生労働科学研究成果のデータ(平成22年度望まない妊娠防止対策に関する総合的研究「第5回男女の生活と意識に関する調査」)によると、未婚の男性で毎回避妊をする人は42.8%でした。また、男性の避妊をしない理由には、「妊娠しないと思った」「面倒だった」といった回答でした。

そのデータでは、97.9%の男性が避妊具としてコンドームを使用するとの調査結果もありました。

一般的な使用方法でのコンドームの避妊率は決して高くはありません。WHO(世界保健機関)によると、一般的な使用方法では100人中13人が妊娠するそうです。一方でIUD(子宮内避妊用具)や、きちんと服用された経口避妊薬(低用量ピルなど)は、妊娠率の低くなる方法として推奨されています。コンドームは、性感染症を防ぐ方法でもあるので、IUDや低用量ピルと併用して使うことが大切です。

つまり、知識不足によって、または偏った知識の影響で、自分としては加害者という認識がなかったとしても、意図せず相手を傷つけることや、相手の人生を狂わせてしまう人がいるのです。

性被害に遭った後の支援がうまくいかず、加害者を生み出している可能性も指摘されています。特に、小児性犯罪の場合は性虐待などの「逆境的小児期体験」を持つ人が圧倒的に多いという話を小児性加害者の治療を行っている精神科医の方に聞いたことがあります。そういった視点から考えると、性被害の予防=性加害の予防という構造が見えてきます。

性被害に遭ってしまった場合でも、その後に適切な支援とつながれるかどうかが、次の加害者を生まない社会をつくるのです。

性教育は、被害者にならない、加害者にならない、そして性犯罪の傍観者にならないために重要な教育です。傍観者にならない被害者を支える第三者のことを、「アクティブバイスタンダー」と呼びます。私たち一人ひとりがアクティブバイスタンダーについて知っていることが、性犯罪の予防や、被害が深刻にならないためにも重要です。自分の友人がもし性被害に遭ってしまったら、どのように対応すればいいか、自分には何ができるかなど、その方法を知っていることでスムーズに動くことが可能になります。自分や大切な人の被害を最小限に抑えることができ、被害者と私が連帯することができます。

このように性犯罪の被害者・加害者・傍観者にならないために必要な全ての情報、知識、行動を総合して性教育といいます。

プロフィル

つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。

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