笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”(5) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子 (動画あり)

イラスト/中村晃子

『環境をつくる』

「人は楽しいから笑うのではない、笑うから楽しくなるのだ」。これは、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズの言葉です。だから、笑う力を鍛えていくことで、毎日が楽しくなるのです。面白いから笑うのではなく、「形から入る」笑いでも十分に、健康に、そしてハッピーな気分になれます。

例えば、日頃は活動的な女性も、フォーマルな場で着物を着ると、自然におしとやかで上品な振る舞いをするようになります。ビーチリゾートに旅行に出かけると、普段は手に取ることのないカラフルな色やスタイルの服を着たくなったりします。

みんなが緊張している場を訪れると、自分も緊張してしまいますし、みんなが怖い顔をしている場では、自分だけニコニコするのは難しいものです。反対に、自分がどんなに不機嫌な時であっても、周りの人からフレンドリーにほほ笑みかけられ、みんながニコニコしている場で、不機嫌な態度と表情を続けるのも難しいのです。

「朱に交われば赤くなる」とか「類は友を呼ぶ」と言いますが、人間は思っている以上に環境に影響されやすいもの。だからこそ、私たちは意識しなくても、その時々に最適な環境とシチュエーションを選んでいます。プロポーズする際には「あなたのことを一生大切にします」というメッセージがより伝わる場所を選ぶでしょうし、子供たちが学ぶ環境を大切にしたいとの思いで、受験する学校を選びます。

心の健康が損なわれると、体も大きな影響を受けます。いい気分で過ごせる場を選ぶことはとても重要で、人間はそれを自然に選び取る能力を持っています。

ところが、時に私たちは、住む家を地域や予算で決めてしまったり、子供が通う学校を偏差値で選んでしまったりと、いい気分で過ごせる「環境」ではなく、「条件」で選んでしまうことがあります。もちろん、お金や学力といった先立つものが条件を決め、その枠組みの中で最適な環境を選ぶのは当然のこと。でも、そこからもう一歩進んで、目的や自分が自分らしくいられるという基準で選ぶことこそ、穏やかに、楽しい気分で日々を過ごすことにつながります。

ある小学校の教員の娘さんが、学校でいじめに遭ったのだそうです。みんなで黒板に書いた先生の悪口を、彼女が消したことがきっかけでした。いじめを知ったそのお母さんは、彼女を抱きしめ「学校に行かなくてもいい。私も学校を休んでずっとあなたといてあげるから」と言いました。ところが、娘さんは一日も学校を休まず、何をされても動じずに、学校に通い続けたのです。そのうち、どんな嫌がらせをしても変わらない彼女を他の子たちも次第に受け入れるようになり、いじめはなくなりました。その娘さんは今、「絶対にいじめを許さない」という強い思いを持った中学校の教員となり、活躍されています。

環境によって、人間は良い影響も悪い影響も受けます。しかし、その環境を心地良いものにつくり変えることができるのもまた、人間が持つ能力です。この娘さんの場合、家庭という安心できる場があり、自分の力で学校を居心地の良い環境に変化させたのです。

古い家でも楽しく感謝をしながら掃除をする。周囲の人が緊張して表情が硬かったら、許される範囲で自分から笑顔で話しかける――。どんな場であっても、自分から能動的に働きかけることで、心地良い空間をつくることができ、笑顔や笑いはそれを助ける大きな力があります。

そこで今回の笑トレでは、「雑巾がけ笑い」と、両手・全身を使う「窓拭き笑い」を紹介します。床の掃除では、モップをかけながら笑います。大変な掃除も、笑いながらやると、楽しくなるはず。まずは、自分の身の回りを居心地の良い環境につくり変えるため、お掃除から始めてみてはいかがでしょうか。

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プロフィル

たかだ・よしこ 兵庫・神戸市生まれ。2009年にインドで笑いヨガを学び、帰国後に日本笑いヨガ協会を設立した。笑いは呼吸であると考え、一生「健康」と「ごきげん」を手に入れられる笑トレや笑いケアを開発し、高齢者のケア現場や企業のストレスケアの分野でも指導・講演活動を行っている。日本応用老年学会理事。著書に『ボケないための笑いヨガ』(春陽堂書店)、『大人の笑トレ』(ゴルフダイジェスト社)など。