大人のSNS講座(11) 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)

画・はこしろ

ライフライン=命綱としてのSNS

今回のコロナ禍では、生活に困窮する人が急増したことを受けて、国や地方自治体、民間の支援団体によって、生活や法律相談、就労支援、食料の無料配達など、さまざまな支援活動が行われています。

こうした支援の現場で大きな力を発揮しているのが、SNSです。2011年の東日本大震災の時にも、ツイッターなどのSNSによる情報発信・共有によって、多くの命が救われただけでなく、多額の寄付金が集まるなどの目覚ましい成果が上がりました。今回のコロナ禍においても、SNSを通して、支援者が支援を必要としている人とつながり、情報や物資を届けようとする動きが活発化しています。

うつ病で家から出られない、学校でいじめられている、家庭内で虐待を受けている、家出をしてネットカフェで寝泊まりしている……など、公的支援につながりづらい状況に置かれている人たちに向けて、手元のスマートフォンからすぐ・その場で連絡できる「SNS相談」の窓口が開設されています。

手元にお金がほとんどない、明日の食費にも困るような状況に追い込まれている人であっても、多くの場合、スマホは所有しており、LINE(ライン)などのSNSも普通に利用しています。スマホの料金が支払えず、利用を止められてしまった場合でも、最寄りのコンビニや駅前など、無料Wi-Fiのある環境に移動すれば、そこからLINEで相談窓口に連絡することができます。

スマホとSNSが日常生活を送る上で必要不可欠なインフラになったために、これまではつながりづらかった人たちと容易につながることができるようになり、必要な情報や支援を届けることができるようになっています。

私が運営に携わっている、性風俗で働く女性の相談窓口「風テラス」でも、LINEやツイッターで随時相談を受け付けています。ツイッターで食料の無料発送の案内を発信したり、働く上でぶつかりがちなトラブルを分かりやすく解説したり、啓発マンガを公開したりするなど、SNSを全面的に活用して相談や支援を行っています。

SNSには、こうした「ライフライン=命綱」としての役割があります。

一方で、先行きが見えず、多くの人が不安に襲われる非常事態においては、SNSを通してデマや陰謀論が拡散されてしまうこともあります。新型コロナウイルスやワクチンに関するデマは、毎日のようにSNS上で発信・拡散されています。SNSは困った時の命綱になる半面、発信される内容によっては、その負の影響によって、自ら命綱を断ち切ってしまう人が増えるというリスクもあるのです。

またSNSでの相談は、対面や電話での相談に比べると情報量が圧倒的に少ないため、難易度が高いのです。つながりをつくりやすい半面、つながりが切れやすくもあるので、せっかくつながったと思っても、すぐに相手が音信不通になってしまうことも少なくありません。チャットの短文だけのやりとりで、本人が抱えている問題の全てを解決することはできないでしょう。

こうした負の側面もありますが、私たちの社会は、もはやSNSのない時代には戻れません。SNSの特性をよく理解した上で、SNSの中でのやりとりだけで相談や議論を完結させるのではなく、あくまで「次につなげるため」のツールとして、活用されるべきでしょう。

SNSの活用が社会のあちこちで広まれば広まるほど、SNSの向こう側にいる「人」の重要性が高まっていきます。誰とでも容易につながれるようになった後には、「誰とつながるか」「なぜつながるか」という問いが立ち現れてくるはずです。そして、こうした問いに対する答えは、SNSの中では見つけることはできません。SNSの外側に出て、初めて見つかるはずです。

これまでの連載でも見てきた通り、SNSにまつわる問題の多くは、SNSの世界の中に閉じ込められてしまったことによって起こります。SNSは「同じ価値観を持った者同士で集まり、閉じこもるためのツール」ではなく、「価値観の異なる他者とつながるためのツール」です。

この点を踏まえて、次回の最終回では、これから私たちが生きていくSNS社会の未来を考えていきたいと思います。

プロフィル

さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。

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