大人のSNS講座(10) 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)
画・はこしろ
SNS本来の役割を取り戻すために
今回は、コロナ禍におけるSNSのプラス面に焦点を当てます。
開催前から様々なトラブルでメディアを賑(にぎ)わせた東京五輪が閉幕しました。東京五輪では、2013年に開催が決定して以降、スタジアムの設計やエンブレムの選定、開会式の演出プラン、関係者の失言や過去の言動などをめぐって、この8年間で数えきれないほどの炎上が起こりました。新型コロナの影響による開催延期が決まった2020年、そしてコロナ禍の中での開催となった2021年は、SNSのタイムラインに流れる東京五輪の話題の多くが、ネガティブなものだったと記憶している人も多いのではないでしょうか。
今回の東京五輪は、「日本の課題が浮き彫りになった五輪」と報道されていますが、SNSの世界においても、これまでの連載で取り上げてきた様々な問題が一気に噴出した期間だったと言えるでしょう。
東京五輪の開催期間中は、現在のSNSの大きな特徴である「キャンセルカルチャー」としての側面が大きくクローズアップされることになりました。
キャンセルカルチャーとは、著名人をはじめとした特定の対象の発言や行動を糾弾し、不買運動を起こしたり、役職の辞任、イベントの開催中止などを要求したりすることによって、その対象を社会的に排除しようとする動きを指します。
キャンセルカルチャーにはそのように特定のターゲットを辞任や中止に追い込んだり、表舞台から引きずり落としたりする力はあるものの、新しいものをつくり上げる力はありません。叩(たた)くこと、壊すこと以外に使えないハンマーのようなもので、それだけでは新しい建物をつくることは不可能です。
しかし、今回のコロナ禍においては、SNSがキャンセルカルチャーとしてではなく、別の力を発揮する場面がありました。その代表例が、クラウドファンディングです。
クラウドファンディングとは、プロジェクトの達成のためにお金を必要としている人が、銀行や投資機関から資金を得るのではなく、ネットを通して不特定多数の群衆(Crowd)から資金調達(Funding)する仕組みです。
コロナ禍で経済的に困っている人たちを助けるために、全国各地で、数えきれないほどのクラウドファンディングが立ち上げられました。SNS上で集まった共感がお金に換わり、それによって、様々なプロジェクトが次々と誕生し、これまでにないスピード感で実践されていきました。
私たちも、志を共にする支援団体と連携して、「夜の世界で孤立している女性・1万人に支援を届けるプロジェクト」というクラウドファンディングを立ち上げました。「性風俗で働く女性の支援」という、世間の共感が得づらい=寄付金が集まりづらいと考えられているテーマでしたが、総額600万円以上の支援を集めることができました。
クラウドファンディングとは、いうなれば、これまでに個人や団体が培ってきた人間関係や活動実績を、支援金という形で可視化・数値化するシステムです。また将来の可能性に投資してもらうシステムでもあります。
自分たちがこれまで積み上げてきた社会的信用に対する評価、そしてこれからの可能性に対する評価が否応なく下されることにもなるため、支援をお願いすること自体に一定の緊張感が伴います。
そして、お願いした人たちから支援をしてもらえなかった時は、お金の問題だけでなく、これまで相手ときちんと信頼関係を築いてこられなかったこと、これからの可能性に期待されていないこと、そして何より、それらに気づかずにいた自分たちの認識の甘さがはっきりと目に見える形で突き付けられます。
そうしたつらさや苦しさを乗り越えて、無事にプロジェクトが成立した時の感動は、言葉では語れないものがあります。住んでいる場所や地域、年代、価値観の異なる多様な背景を持った人たちをつないで社会的インパクトのある活動を巻き起こす、というのは、「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」というSNS本来の役割を実感できる瞬間でもありました。
「壊すため」「潰(つぶ)すため」のハンマーではなく、「生み出すため」「つなぐため」の命綱として、SNSの力が発揮されていく場面は、今後も増えていくことでしょう。暇つぶしやストレス解消のために炎上に加担するのではなく、世の中を良くしていく動きに参加するために、SNSを活用すること。これこそ、「大人の」SNSの使い方だと言えるでしょう。
※次回も、SNSが人の生活や社会活動の役に立っている事例をご紹介します
プロフィル
さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。
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