大人のSNS講座(3) 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)

画・はこしろ

ネガティブを超える(ネットやSNSの世界について正しく学んで賢く利用する)

今回は、SNS上での意見の異なる相手との付き合い方、そして自分も他人も傷つけずにSNSを有効に活用する方法を考えます。

前回でも取り上げたように、ツイッター上では、2010年代から「女性の身体を過度に性的に描いたアニメやマンガのキャラクターを、ポスターなどで公の場に出すことが許せない」という人たち(フェミニスト)と、「作品のキャラクターに難癖をつけて炎上させ、表現の自由を侵害しようとするフェミニストが許せない」という人たち(オタク)の間で激しい対立が生じています。

こうした状況に歯止めをかけるため、私は両者の対話の場をつくることを目指して、2020年12月5日(土)、オンラインイベント『シン・これからの「フェミニズム」を考える白熱討論会(#シンこれフェミ)』を開催しました。

約200名の参加者が見守る中、そしてツイッターでハッシュタグ(#)を用いて実況が行われる中、オタクのネット論客とフェミニストの研究者が議論し、言い分が真っ向からぶつかり合う両者の対話の糸口を模索していきました。

一部の人にとって「公の場で認めてほしくない」と感じる表現でも、他の誰かにとって「公の場で認めてほしい」表現になる場合があります。お互いの正義や信念がぶつかり合う中で生じた対立は、どれだけSNS上で議論を繰り返したとしても、決して埋まるものではありません。

今回のイベントによって、公の場での性表現をめぐるフェミニストとオタクの対立が解消されることはありませんでした。イベントの最中、そして終了後も、ツイッター上では双方の陣営に対する批判的な意見が飛び交っていました。

その一方で、こうした場が設けられたこと自体を評価する声も数多くツイッター上で発信されました。17時に始まったイベントは、本編が終わった20時以降も参加者からの質問や意見が殺到し、日付の変わった深夜25時過ぎまで質疑応答が続きました。

時としてSNS上では、匿名で強い言葉をぶつけ合うことによって、議論という次元を超えて、意見の異なる相手に対する誹謗(ひぼう)中傷やデマの拡散、ネットリンチのような状況に至ってしまうケースも起こります。

しかし、意見の異なる人たち同士が同じテーブルで話し合いのできる場を用意した上で、(オンラインではありますが)お互いが一対一で顔を突き合わせて話し合うことができれば、建設的な議論ができる可能性が高まります。

イベントの中で、普段ツイッターのアカウントを通してしかやりとりしていない人たちが、お互いの生の声を聴いたことで、「この人、こんな声をしていたのか」「ヤバそうな人だと思っていたけれど、意外と話せるじゃないか」という感想が飛び交う場面もありました。

SNSは論理的な意見よりも感情的な意見が拡散される空間です。つい思うに任せて感情的な意見を投稿したくなる誘惑に駆られてしまいがちです。特にツイッターは、140文字以内という制限の中で、最も伝えたいことを言葉にするため、感情的・攻撃的な投稿がどうしても多くなってしまいます。

必要なのは対立や争いを中和するための場をつくっていくこと、あるいはそうした場に当事者でなくても積極的に参加していくことです。SNSをうまく活用するためには、実はSNS以外の場でのつながりや対話の場を確保することが大切になります。SNSと現実は、対立する関係ではなく、お互いに補い合う関係なのですから。

自分も他人も傷つけずにSNSを有効に活用するための第一歩として、まず「SNS以外でのつながりを確保する」ということを意識してみましょう。

※次回は、LINE、インスタグラム、ツイッター、フェイスブックについて、それぞれの特徴や用途(SNSは人とのコミュニケーションの可能性を広げる)を考えます

プロフィル

さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。

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