内藤麻里子の文芸観察(13)

誉田哲也さんの『もう、聞こえない』(幻冬舎)は、ファンタジーと言おうか、ホラーと言おうか、とにかく不可思議な要素を絡ませて、思いもよらないめくるめく展開を見せてくれるミステリーだ。

ある晩、傷害致死事件が起きた。加害者は中西雪実という女性。被害者は浜辺友介。雪実は自ら通報し、犯行も認めているが、取り調べになると泣いてばかりで話にならない。ようやく話し出したと思えば、「誰かは、分からないんですけど、女の人の声が、ふいに、聞こえるときが、あるんです」ときた。

一方で、「ゆったん」と「みんみ」という幼なじみの少女2人の幼い頃からの友情が語られる。ゆったんはコツコツ勉強して大学生になるが、スポーツ推薦を狙っていたみんみは歯車が狂って進学が果たせず地元で不遇をかこつ。そんな中、みんみは河川敷で殺されてしまう。なぜ、こんなことが起きたのか、ゆったんはみんみの周辺を調べ始める。

徐々に雪実の言動と、ゆったんの回想に微妙なずれを感じ、ほんのわずかな違和感が生まれる。「女の人の声」と雪実の関係性が、こちらの予想を超えて二転三転し、事件の様相が変わっていく。この先に何が待っているのかとワクワクしながら、ページを繰ることになった。

誉田さんは、映像化された『ストロベリーナイト』(2006年)にはじまる「姫川玲子」シリーズや、「ジウ」シリーズといった警察小説から、『武士道シックスティーン』(2007年)などの青春小説まで多彩な作品で知られる人気作家。エンターテインメント小説を構築する腕を本作でたっぷり味わわせてくれた。物語展開やファンタジー要素を支える世界観はもちろん、あちこちに潜んだひっかかりもつるつると回収させて気持ちがいい。

終幕の一場はこれまた予想を裏切る明るさ。ここまで読んできて、ああ、そうかと思う。この物語は、女たちのもろさの一方にあるしたたかさ、しなやかさを一貫して書いていたのだ。そういえば、誉田作品は女性の主人公が多い。ハードなミステリーが多いのに、女性ファンの比率が高いのは、そんな主人公たちにひかれることが一つの理由かもしれない。

「姫川玲子」シリーズを知っている読者には、うれしい登場人物もいる。ある刑事の妻なのだが、この人が愛らしい、勘のいい刑事であるのも彩りを添えている。

プロフィル

ないとう・まりこ 1959年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。87年に毎日新聞社入社、宇都宮支局などを経て90年から学芸部に。2000年から文芸を担当する。同社編集委員を務め、19年8月に退社。現在は文芸ジャーナリストとして活動する。毎日新聞でコラム「エンタメ小説今月の推し!」(奇数月第1土曜日朝刊)を連載中。