TKWO――音楽とともにある人生♪ バリトンサクソフォン・栃尾克樹さん Vol.2

多岐にわたる仕事

――10年間、インスペクターを担い、思い出に残っていることはありますか

これが一番、というと難しいですが、海外ツアーの時はなかなか大変です。日本では、必ずしも全員が同じ交通手段で、東京から現地に行くわけではありませんが、海外では全員が一緒に行動します。その時の人数確認や点呼、アナウンスもインペクの仕事です。

2011年に台湾に行った時のことです。その日の演奏会には使わない荷物を運ぶトラックがありました。ですから、楽団員に「本番の衣装は、絶対にトラックには預けないでください。手に持ってバスに乗ってくださいね」と、口酸っぱく伝えていたのです。

そこで事件が起こりました。ふと、心配になって、新井清史さん(アルトクラリネット奏者)に「衣装は大丈夫ですよね?」と聞くと、「おっ、トラックに乗せてあるから大丈夫だよ」と自信たっぷりに言われました。最初は当然、冗談だろうと思っていたのですが、本当だったんですね。本番当日にもかかわらず、衣装を持たない新井さんと、見知らぬ土地を衣装探しに駆け回りました。「結婚式場に行けばきっと貸し衣装があるはすだ」とか言って……。いろいろな所に行き、何とか衣装は見つかり、本番に出ることができました。

インペクの仕事は、本当に多岐にわたるものでした。堀君は考え方も性格もしっかりしているので、安心して後を任せることができます。

プロフィル

とちお・かつき 1963年、大阪・藤井寺市出身。1982年、大学在学中に「アルモ・サクソフォン・カルテット」を結成し、4年後に第21回民音室内楽コンクール(現東京国際音楽コンクール室内楽)で第1位を受賞。同グループで7枚、ソロでは5枚のCDをリリースした。今秋、6枚目となる「冬の旅」をリリース予定。現在、武蔵野音楽大学、同大学附属高等学校、聖徳大学の講師を務めている。