男たちの介護――(11) 変わりゆく父 激動の中での決断

「どこに相談に行けばいいのか」「どういう支援制度があるのか」と分からないことだらけの状態だったが、ケアマネジャーと相談しながらショートステイなどを利用するようになってからは、心にゆとりが生まれ、冷静に対処できるようになった。

支部のサンガ(教えの仲間)も支えてくれた。中でも同じように夫の介護をし、立正佼成会で主任をしていた沖妙子さん(68)は、得意料理の魚のあら煮や、煮しめなどを持って、たびたび来てくれた。「本人にとって、うれしいことや楽しみなことに話を持っていけばいいのよ」。そうした会話の工夫を聞くと参考になった。お茶を飲みながら、家事の悩みも聞いてくれた。その何げない心遣いにどれだけ救われたか分からない。「一人で考え込むとどうしても悪い方向に傾きやすいのですが、共感してくれる人がいることで前向きな気持ちになれました」と昌平さんは振り返る。

一昨年3月、知則さんは自宅近くの総合病院で静かに息を引き取った。安らかな最期だった。体調を崩した知則さんを、昌平さんは介護しきれず、特別養護老人ホームに入所してもらうことにした。スタッフのこまやかなケアで、入所していた半年間、父が時折笑顔を見せるようになったという。

人の輪に支えられて乗り越えられた日々。介護にもひと区切りがついた。昌平さんは今、普段のありきたりな生活や風景の中にある安らぎと、妻とのかけがえのない時間を大切に過ごそうと決めている。「妻は私の両親の面倒をよく見て、私を支えてくれました。けなげで、芯の強い女性です。妻をいたわって生活していきたいと思います」。

※記事中の人物は、仮名です

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