男たちの介護――(6) 藤堂靖之さんの体験を読んで 津止正敏・立命館大学教授

とはいえ、認知症の症状が進むにつれ、あれほど優しかった母が、藤堂さんには「わがままな人間」へと変貌していくように思えました。藤堂さん自身も母の介護に翻弄(ほんろう)され、自分を見失いそうになったことがありました。

その時に出合ったのが男性介護者が交流するサロンでした。そこで藤堂さんは大きな衝撃を受けます。それは、自分の弱さやつらさを包み隠さず吐露しながらも、晴れやかな表情で帰っていく参加者の姿でした。〈ここでは弱音を吐いてもいいんだ。俺は一人じゃないんだ〉。心からそう思えた時、一筋の希望が見つかったのです。さらに、他の人の話を聞いて、認知症の症状そのものを理解し、「こんな援助の方法もあるのか」と情報を集めていくことで、その後デイサービスを利用するなど心のゆとりが生まれ、新鮮な気持ちで母と向き合うことができました。

介護についての情報は、書籍やインターネット上でもたくさん見つかりますが、経験者の話を直接聞くのが一番だと私は思います。自分のつらい体験を吐露しても耳を傾けてくれる人がいることで、介護の思いを共有し、「これでいいんだ」と安心することができるからです。介護に役立つ情報が得られるのはもちろん、ストレス発散の場としてもプラスに働きます。介護はいつ終わるとも知れない長期戦です。何事も一人で抱え込んで我慢するのではなく、当事者同士がつながる場づくりに参加してみるのも、男性介護者にとって必要なことなのかもしれません。

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