男たちの介護――(4) 認知症の母との二人暮らし 心折れそうになりながら

職場に一本の電話が入った。警察からだった。「お母さんを保護しました。すぐに来てください」。慌てて駆けつけると、母は大きなかばんを抱えながら泣きわめいていた。「ああ、どうしよう。家に帰らなきゃ」。掛ける言葉も見つからなかった。〈これから先、母はどうなるのか。私はどうすればいいのか〉。途方に暮れた。

夜の徘徊(はいかい)も始まった。母の歩くスピードは異様に速かった。寝不足と仕事の疲れで意識はもうろうとしているため、母に追いつけず見失ってしまうこともあった。トイレの世話も大変だった。体を休める時間はわずかだったが、母への不満はなかった。

藤堂さんは60歳で定年退職を迎え、広島に戻った。「嘱託社員としてこのまま会社に残ってくれないか」と慰留されたが、断った。母の介護に専念するためである。

要介護認定の手続きをした。食事や着替えなど日常生活でほぼ全面的な介護が必要な「要介護4」の認定を受けたが、藤堂さんは介護サービスを利用できなかった。母からはたくさんのことをしてもらった。だから、自分の手で母の世話をしてあげたかった。今度は自分が母に尽くす番だった。人の手を借りることに罪悪感さえあった。特別養護老人ホームへの入所も考えたが、それも同じ理由でできなかった。ただ、思いとは裏腹に、もう体がついていかなくなっていた。

〈このままだと共倒れになる〉。心身共に限界に来ていた。母と真正面から向き合えば向き合うほど、自分のふがいなさといら立ちと重圧に押しつぶされそうだった。話し相手がいないこともつらかった。

これ以上、支えるのは無理だと心が折れかけた時、郵便受けに一枚のチラシが入っていた。
(つづく)

※記事中の人物は、仮名です