男たちの介護――(3) 山田房雄さんの体験を読んで 津止正敏・立命館大学教授

ケアマネジャーなど公的サービスを活用 体験を肯定し、今後の人生を支える糧に

2週にわたり、山田房雄さん(81)=仮名=の介護体験をリポートした。妻をみとった山田さんの体験を立命館大学の津止正敏教授(社会学)に、いま一度振り返ってもらった。

山田房雄さんの介護体験の中で、〈もっと早く病院に行くことを勧めていれば……〉と後悔する場面があります。家族を亡くされた多くの方が持つ感情でしょう。月日が経っても消えることのない胸の痛みですが、そのことを大事にしていくことで、心がさらに柔らかく耕されていくように思うのです。

介護者が男性の場合は特に、それまでの生活とは全く逆転した現実に直面します。代表的なものに掃除、洗濯、食事の支度を挙げることができるでしょうか。“妻がやってくれて当たり前”の家事が、実際やってみると面倒で、大変なことに気づかされる。妻の面倒も見なければなりません。トイレの世話や歯磨き、着替えなど初めて体験することばかりでうまくできず、戸惑い、イライラすることが多い。「シャワーを浴びて、さっぱりしてもらいたい」と思っても体調によって風呂場に行けないこともある。前向きな思いも無駄になってしまうのが介護です。仕事をしている時のように効率的にはいきません。これは、山田さんに限ったことではありません。急に妻を介護しなければならなくなった、一人の男の戸惑いと深い葛藤を抱いていたことが記事から推測されます。

山田さんを気遣う、地域の竹中とみこさん(63)=仮名=と仲間の存在は重要です。介護の不安、葛藤を打ち明けられない人は多く、〈いつか手を上げてしまうのではないか〉という危惧と紙一重の生活を送っている。山田さんは、竹中さんらコミュニティーの中で思いを吐き出せたことが良かったのだと思います。

サポートという点では、山田さんは公的サービスを受けられず、もったいなかったという印象を受けました。自治体の補助や介護度によってどんな支援が受けられるのかなど、支援の内容を熟知している人はほとんどいません。そうした私たちの案内役を務めてくれるのがケアマネジャーです。介護者の話に耳を傾けてサポート方法を一緒に考え、手続きなども進めてくれる、頼りになる存在です。公的サービスをぜひ活用して頂きたいと思います。

記事の中で、山田さんが「一番つらいのは、体を動かせなくなったユキだろう」と気づくところがあります。さらに、周囲の人との触れ合いから知らなかった妻の一面を発見します。介護は決してつらいことだけではありません。介護を通し山田さん夫婦の関係は深まり、豊かになりました。このように介護から学ぶことは多いと、山田さんの記事から改めて教えられました。

今後、体験記としてまとめたり、積極的に家族や周囲の人に語ったりしながら、介護してきた時間を振り返ることは大切です。そうしたことが、今介護をしている人の役に立つからです。そして何より介護したことの肯定感は、人生の糧として山田さんのこれからを支えてくれるものと信じています。