TKWO――音楽とともにある人生♪ アルトサクソフォン・林田祐和さん Vol.3

写真と音楽の共通点 言葉では伝えられない感動を表現

林田さんが琵琶湖で撮影した今年の初日の出。お気に入りの一枚だ

――すてきな写真が多いですよね。カメラと音楽に通じるところはありますか

ある面では、ほとんど一緒だと思いますよ。それは構図です。主役があって、脇役がいて、全体の色合いや光の入り方、その全てがまとまった時に一枚のすてきな写真が出来上がります。

音楽も、主役の旋律があって、それを引き立てるバックサウンドがあって、一つの曲をつくり上げます。全体の構図を考えないと、いろいろなものが混在している作品になってしまい、第三者に感動を与えることができないばかりか、不快感を与えてしまうこともあります。バランスを取るためのそれぞれの案配が絶妙だと、主役がはっきりしていて、脇役も存在感を保ち、だからこそ、深みが出るものになります。そうして、人々の想像力をさらにかき立てることができるのです。

――写真も楽器も、言葉で表現しないという共通点がありますね

それもありますが、何より、見る人、感じる人が感動を覚え、それを基に想像が広がる媒体が好きです。ですから、全てを言葉で伝えてしまう動画や歌は好きではなく、あまりやってみたいという気にはなりません。動画はリアルに伝わり、相手が受け取る情報が多過ぎるでしょう? 歌は、メロディーよりも歌詞を聞いて、その言葉通りの出来上がっている物語を感じ取るもので、どちらも、相手の想像力をかき立てるという点では小さいかなと思います。

対して、写真はまず絵が静止していますから、それだけでも、例えば、写っている人の会話、状況、思い、空気感などについて、さまざまな想像が浮かんできませんか。

楽器っていいな、と思うのもそういうところです。私たち奏者は演奏でしか自分の世界観を表現できませんが、言葉ではっきりと表すことのない世界をお客さんがインスピレーションを得て一緒に味わってもらえたら、との思いを込めて演奏しています。音だけの世界に包まれて、一人ひとりの想像が広がっていくところに音楽の醍醐味(だいごみ)があるのではないでしょうか。

――林田さんは音楽の道を志したのが中学生の時でした。今まさに、吹奏楽に励んでいる中学生、高校生にアドバイスを

“衝撃”を受けに、ぜひ、プロの演奏を聴きに行ってください。僕が演奏で人を“魅了する”ということを意識し始めたのは、中学生の時に足を運んだ佼成ウインドの演奏会で受けた衝撃がきっかけでした。演奏会で衝撃を受け、僕は吹奏楽への思いが深まりました。それとともに練習に向かう気持ちも仕方も変わり、憧れの奏者の吹き方をまねてみたり、リズムに合わせて身体を動かして吹いてみたり、その人に近づきたいという一心で研究をしたのです。

衝撃を受けたものに、心を突き動かされ、自分の将来を思い描く。自らの思いに背中を押されて進むことが多くあると思います。何が自分を突き動かすきっかけになるかは分かりません。練習も大事ですが、外に飛び出して、さまざまな演奏に触れてみる。そして、やっぱりできるだけ良い演奏を見て、自身の夢を育む、日々の意欲をかき立てる、そんなきっかけを見つけてほしいなと思います。

プロフィル

はやしだ・ひろかず 1981年、宮崎・日向市生まれ。東京藝術大学大学院を卒業。「クローバー・サクソフォン・クヮルテット」のソプラノサクソフォン奏者として、キングレコードより「CLOVER」、「Precious」(レコード芸術特選盤、音楽の友推薦盤、読売新聞特選盤)をリリースした。2005年に第22回日本管打楽器コンクールで第1位に入賞している。