TKWO――音楽とともにある人生♪ フルート・前田綾子さん Vol.2
吹奏楽の曲を数多く手掛けた真島俊夫氏との出会い
――昨年4月に行われた「吹奏楽大作戦 Mの秘密」では、作曲兼編曲家で、吹奏楽の楽曲を数多く手掛けた真島俊夫さんとの思い出を紹介されてました
そうですね。お酒と音楽を楽しむ仲で、娘のようにかわいがってくださっていたのですが、一昨年に亡くなられてしまいました。その演奏会の「M」は、真島さんのイニシャルから付けたもので真島さんが手掛けた曲だけを演奏しました。奏者一人ひとり、客席のお一人おひとりが、真島さんに思いをはせながら過ごした貴重な時間だったと思います。
さらに、特別ゲストとして、奥様をお招きしました。それも、演奏を聴きに客席に座って頂いたのではなくて、もともと奥様は、演奏者だったので、打楽器奏者として演奏に加わって頂いたのです。私の話を聞いていらっしゃった奥様からは、終了後に「言うなら、娘じゃなくて妹でしょ」と叱られてしまいましたが、真島さんには本当によくして頂いて、感謝しかありません。
――真島さんと佼成ウインドとのつながりは深く、毎年リリースしている「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」の収録に関わって頂いたり、「三つのジャポニスム」「地球―美しき惑星―」という曲を書いてくださったりしています
真島さんから音楽について深く教えて頂くようになったきっかけは、入団して最初の定期演奏会です。「三つのジャポニスム」の初演で、フルートの長いソロがあり、私は大変緊張していて、終わった後も、「これでよかったのか」と不安な気持ちでいました。その時に、真島さんが声を掛けてくださったのです。「素晴らしかったよ」と。作曲した方、特に著名な作曲者にそんなふうに言われたら、うれしいに決まっています。
その後、家が近所ということもあって、真島家でお酒を頂くようになったんです。「今日は、ジャズのプレーヤーが来ているんだけど、来ない?」と声を掛けてくださって、「行きます、行きます」と応えて、深夜までお邪魔してしまうということもありました。
――真島さんとの思い出はたくさんあるのですね
真島さんに母を紹介した時のことは、忘れることができません。私がソロでコンサートを開いた会場で、真島さんに「うちの母です」と告げると、真島さんはいきなり母の手を握り、「お母さん、綾子ちゃんを産んでくれてありがとう」とおっしゃったんです。私は、「また、キザなことを言うなあ」と思って見てたのですが、母は感激して泣いていました。
音楽に対しては厳しい方ですが、その奥には優しさがあり、人も音楽も大事にされました。真島さんの音楽は、日本の響きとフランスの響きとが相交じり、“フレンチ懐石”みたいな仕上がりの曲が多くあります。ですが、基調となる部分には常に「日本」の旋律があるので、音楽に詳しくない人でも、真島さんの曲を聞くと、どこか懐かしい曲を聴いているように感じるのではないでしょうか。数多くの名曲を残されていますので、ぜひ聴いて頂きたいと思います。
プロフィル
まえだ・あやこ 大阪・豊中市生まれ。神戸女学院大学でハンナ・ギューリック・スエヒロ賞を受賞し、卒業後、フランスに留学した。エコール・ノルマル音楽院、ロマンヴィル国立音楽学校、オルネー国立音楽学校、パリ20区立音楽院を全て満場一致の首席一等賞を得て卒業。パリUFAM国際コンクール、イタリア・アクレモナ国際音楽コンクールなど数々のコンクールで優勝を果たす。「ミニュイ」「ピュリティ」「シェ・エム」のCDをリリース。