大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(13)最終回 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

画・ありお

『思考しよう』

私たちは社会の中で、「男性はこう」「女性はこう」という価値観を共有しながら生きています。生物学的な性別に対し、このような社会的・文化的役割として求められる性別をジェンダーと言います。

例えば、女性に対する「料理や、子どものお迎えは母親がするもの」「しとやかであるべき」「男性を立てなければならない」といったイメージや、「人前で泣いてはいけない」「リーダーシップがとれる」「力強さや包容力がある」といった男性像がそうです。私たちが持つこのような無意識のジェンダーバイアス(性に基づく偏見)や男女における不平等は、日本だけでなく世界中で問題視されています。

「性被害」や「性暴力」の問題も、「女性はしとやかであるべき」という周囲の圧力が行き過ぎた結果だと、私は考えています。性暴力事件の裁判を傍聴すると、男性側の言い分として「嫌だと言わなかったから、同意したと思った」という発言を、高い確率で耳にします。多くの女性たちは、生まれた時からしとやかさを求められ、男性を立てるべきであると教えられてきたにもかかわらず、性暴力を受けると、「なぜ拒絶しなかったのか」「ノーと言わなかったあなたにも責任がある」と言われてしまうことがあるのです。

DV(ドメスティック・バイオレンス)の問題も同じような要因から悪化すると考えられます。男性から女性へのDVが割合的に多いのは、力の差はもちろんですが、女性たちの中に「我慢しないといけない」という意識が根強くあり、対等な立場でいることを放棄してしまうのです。さらに、周囲に相談しても、「あなたが旦那さんを立てないから」などと言われ、なかなか深刻に受け取ってもらえない。そのうち被害女性たちは、暴力そのものを認識できなくなってしまう。それはとても苦しいことだと思います。

このように私たちの社会では、さまざまな場面で性別による差別や偏見が存在していて、最近ではそんな差別的な社会システムを是正しようという「ノンバイナリー(二元論をなくそう)」という価値観も出てきました。

一方で、「公衆のトイレや浴場も男女同じにすればいい」「多様性を受け入れないのは悪」というような極端な論調に困惑する気持ちも分かります。多様性を押し付けるのではなく、世代や立場を超えてたくさんの人同士が、どういう社会にしていきたいか、という視点で話し合えるようになるといいのではないでしょうか。

意見や価値観の違う人と話し合う時に大事なのは、「相手と私が持っている共通のゴールはなんだろう」という視点を持つことです。人は自分と違う意見を聞くと拒絶反応が起きるもの。その時に、「なぜ違うのか」に目を向けては対立が深まるばかりです。「自分の子どもには安全に生きてほしい」という、多くの親が共通で持つ願いを中心に据えて、もしかしたらわが子が成長する中で、同性を好きになったり、性別に違和感を覚えたり、セクシュアリティーに悩むことがあるかもしれない。そうなった時、今のような社会で果たして幸せに暮らせるのか――。そんなふうに思考を巡らせることが大事ではないでしょうか。

これまでも何度かお話ししましたが、性教育の問題に限らず、日本の社会では「思考する」という機会が非常に少ないように思います。子どもたちが自ら思考し、正しく安全な道を自らの意思で歩むためにも、家庭の中でも子どもが「これってこうなんだよ」と話してくれたときに、「そうなんだ」だけでなく、「どうしてそう思ったの?」や「それを知った時にあなたはどう思った?」など、投げかけてみてください。それをきっかけに子どもなりに深く考えていくと、主体的に考え、失敗した時にも「どうやったら改善できるんだろう」と、自分の中で問いかけていけるようになります。

ソウレッジの活動も、はじめは「自分の半径数メートルにいる人が幸せでいてくれたらいい」という思いから始まりました。そこから、「なぜ? どうして?」という疑問や、「もっと良くしたい」という願いを周りに伝え、その思いに賛同してくれた人たちと思考を重ね、ここまでの規模に成長することができました。この連載を読んでくださった皆さんも、志を同じくする仲間だと思っています。隣にいる自分の子どもでもいい、パートナーや友人でもいい、身近な一人から「性教育って知ってる?」「あなたはどう思う?」と声をかけてみてください。そうやって社会を変える仲間が増えていけば、世界は急速に変化するはずです。

性教育についての連載は今回で終わりとなりますが、全ての人が幸せに生きられる世の中を、これからも一緒に創造していけたら、とてもうれしく思います。

プロフィル

つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。