ミンダナオに吹く風(20) 野山を駆け回るピックアップトラック 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)

訪問者の方々は、驚いた様子で顔を見合わせている。すると、一人が、白いトヨタのハイラックスの側面を見て質問を投げ掛けた。

「この車は、台湾の赤十字からの寄付で、手に入れられたのですか?」

「ええ、そうです。大阪の堺市で、国際平和賞の奨励賞を頂いた時のこと、台湾の赤十字社が『東日本大震災の支援で、他国の中で台湾が、最も多大な支援をしてくださった』という理由で、大賞を受賞されたのです。その時、代表の方が演台に登り、スピーチで『今回頂いた賞金は、全てミンダナオ子ども図書館に差し上げます!』と、おっしゃったんです。驚きました。でも、そのおかげで、必要としていたトラックを購入することができたんです。その後、ミンダナオ子ども図書館にも来てくださいました」

相手は納得がいったという表情を見せ、「なるほど、それで、車体に『台湾赤十字からの寄付』と書かれているんですね」と語った。

「ええ。ところがそれ以後、あちこちで言われるんです。『友さん。あなた、中国人だったの!? 日本人だとばかり、思っていたよ』って。ぼく自身は、どこの国でもかまわないんですが、できれば誤解がないようにと、バンパーの横に、台湾とフィリピンと日本の国旗を並べて貼ったんです」

そう言いながら、私が運転席に乗り込むと、それを見ていた訪問者は少し困惑した顔をして言った。

「松居さん、あなたがドライバーなの?」

車のエンジンをかけると、私は答えた。

「ええ、ミンダナオで活動を始めた頃から10年近くは、ぼくが唯一のドライバーでした。当時は、お金もなかったから、フィリピンで製造されたトヨタの格安の後輪駆動車タマラオ1台で、野山を駆け回っていたんです。今は、運転できるスタッフが4人いるけれども、今でも山道で困難な場所に来ると、ぼくが代わって運転を引き受ける。そのようなわけで、ぼくのミンダナオ子ども図書館での役職名は、エグゼグティブ・ディレクターではなく、エグゼクティブ・ドライバーだと言われているんです」。一斉に笑い声が上がった。

「ここでは、やれる人が、やれることを、やれるだけ、やればいいんですね!」

プロフィル

まつい・とも 1953年、東京都生まれ。児童文学者。2003年、フィリピン・ミンダナオ島で、NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を設立。読み語りの活動を中心に、小学校や保育所建設、医療支援、奨学金の付与などを行っている。第3回自由都市・堺 平和貢献賞「奨励賞」を受賞。ミンダナオに関する著書に『手をつなごうよ』(彩流社)、『サンパギータのくびかざり』(今人舎)などがある。近著は『サダムとせかいいち大きなワニ』(今人舎)。