ミンダナオに吹く風(16) 和平に向けて団結し始めた人々 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)
和平に向けて団結し始めた人々
「ミンダナオ島にIS(イスラーム国)が侵入してきている」という情報は、すでにマラウィの戦争が勃発する3年ぐらい前に、ミンダナオ和平国際監視団のメンバーを通じて耳にしていた。ISが勢力を拡大していった結果が今回のマラウィの戦争であり、短期間に市の建物が徹底的に破壊された。多くの避難民がいまだに家に帰れないのは、悲しいことだ。
一方、50年前から戦争が繰り返され、17年前からミンダナオ子ども図書館が避難民の救済を続けてきたモロ民族解放戦線(MNLF)の拠点・北コタバト州のピキットやイスラム自治区のリグアサン湿原地帯は、今回の戦争の影響は、多少はあるものの、驚くほど穏やかだった。その理由は、海外のテロ組織が主謀する戦争がマラウィで起こっても、フィリピン最大の反政府勢力であるモロ・イスラム解放戦線(MILF)は、あえて戦闘に加担せずに中立の立場を維持したからだった。長年の和平構築の努力もあってのことだろう。
マラウィの戦闘が終結した10月以降にも、現地で最も警戒されたことは、イスラーム過激派がマラウィからミンダナオ全域に拡散し、各地でテロ活動を開始するのではないか、ということだった。それゆえ、ドゥテルテ大統領は、戦争終結後も戒厳令を継続し、今に至っている。
予想された通り、マラウィから離散した過激派組織の分離派は、ミンダナオ子ども図書館の活動地域でもテロ活動を開始した。その影響を受けて、私たちが日本政府によるODA(政府開発援助)「草の根・人間の安全保障無償資金協力」で小学校を建てたカルボガン村の人々も、舟でしか入れないリグアサン湿原から国道沿いに緊急避難してきているという情報が入ってきた。そこで、私たちは、すぐに現地と連絡を取り、避難民救済の準備を始めた。しかし、10日も経たずにミンダナオ子ども図書館の奨学生を含む避難民たちは、自分の村に帰れることになった。
「政府側が、過激なテロリストを抑えたのか」と思ったが、すぐに驚くべき情報が入ってきた。なんと、今回、村の人々に避難警告を出したのは、政府ではなくモロ・イスラム解放戦線であり、活動を始めた過激な分離派のテロリストを抑えたのも彼らだったのだ!
過去に戦争の中心となっていた勢力が民間人を守る。このようなことが可能になってきた背景には、一つは、ドゥテルテ大統領のもとで和平交渉が軌道に乗り、ムスリム(イスラーム教徒)の人々が、自治州独立の希望が持てるようになったことがある。そして、最も困難で危険な地域での日本を含む和平国際監視団や、ミンダナオ子ども図書館を含むNGOによる平和構築への長年の活動によって、地域の人々の平和への期待が高まったからだと感じている。時間はかかっても、平和を希求する心は、着実にミンダナオに広がっているのではないだろうか。
プロフィル
まつい・とも 1953年、東京都生まれ。児童文学者。2003年、フィリピン・ミンダナオ島で、NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を設立。読み語りの活動を中心に、小学校や保育所建設、医療支援、奨学金の付与などを行っている。第3回自由都市・堺 平和貢献賞「奨励賞」を受賞。ミンダナオに関する著書に『手をつなごうよ』(彩流社)、『サンパギータのくびかざり』(今人舎)などがある。近著は『サダムとせかいいち大きなワニ』(今人舎)。