栄福の時代を目指して(17) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「未来への希望」の戦略と物語――ポスト・リベラルの中道思想

この分析から、直ちに「未来への希望」の戦略も導かれる。

惨敗によって、参院議員や地方議員の合流はすぐにはなされないことになり、衆院の中道では立民側から小川淳也氏が代表として選出された。望むらくは、前述の難点が克服されるように、深く真剣な議論が行われて、次元の高い新連合が生成されていってほしいものだ。

前回の拙論ではこの局面も念頭に置いて提案をしている。「平和への結集」においては、立民と公明の合流が主役となって主軸を形成することが課題だった。私自身は、可能なら比例区統一名簿を形成するなどの方法で、両党が選挙協力を緊密に行うことが最善手だと考えていた。特に新党結成にあたって公明側が立民側に基本政策の修正を要請したのならば、この方式が望ましかっただろう。この場合は、双方の個性を活かした「大同団結」となり、両党の支持者が違和感なく投票することが容易になるから、前述のようにソフト立憲支持票が失われることはなかっただろう。

また、期せずして現れたリベラル・コミュニタリアニズム(徳義共生主義)も、十分に訴えることができなかった。選挙後の調査で「中道に投票しなかった理由」(10代~30代)の1位は、「政党の理念が感じられない」だった(NHK「ニュースウォッチ9」NHK世論調査、2月13日)。つまり、訴え方において、若い有権者が新しい理念を感じなかったということだ。立候補者たちの多くも、生成しつつある理念を十分に認識していなかっただろうから、当然の結果だろう。

小選挙区で、いわゆるリベラル派の議員は、重鎮も含めてほとんど落選し、壊滅状態に陥った。逆に辛うじて当選した7人の議員には中道ないし中道右派の方が多いようだ。この一因は、リベラル派議員の支持者は前述の理由によって不活性化したのに対し、中道ないし中道右派議員の支持者は従前と変わりなく応援したからではなかろうか。

私自身は「リベラリズムでは勝利は難しく、それで政権を獲得できるという幻想を捨てるべきだ」と主張してきたから、選挙結果はこの点を劇的な形で顕在化させたということにもなる。とすれば、極右ポピュリズム台風に対抗することができるのは、リベラリズムではなく、ましてや左翼思想でもないのだから、リベラル・コミュニタリアニズムしかない。これは、いわば「ポスト・リベラルの中道思想」だ。よって、この思想を連合政党の理念として昇華して、議員と支持者が深く認識することがもっとも大切だ。

幅広い倫理的中道への展開――ウェルビーイングを高める「希望の物語」

従って、先月書いた思想的内容はそのまま今後の課題となる。もともと衆院選後の局面を念頭に述べていたのだ。第一に、倫理的中道の理念を定礎し、中道左派から中道右派も含む幅広い中道を再構成すること。覇道に対抗するのは、中道というだけでは必ずしも十分ではなく、倫理的な中道である。この概念は単なる中間ではなく、状況に応じて知恵と熟議による判断を意味している。

思想的問題だけではなく、戦略的にもこの必要性は明らかだ。現在の左右軸においては、与党だけではなく、参政党や保守党、国民民主党、チームみらいというように、極右から中道右派まで政党がひしめいている。だから、中道右派を軸にすると自ずと中道改革連合の票は限定されてしまう。これに対して、左翼側には社共やれいわ新選組が存在するが、従来の立憲民主党に相当する中道左派の政党が衆院ではなくなった。だから、競合政党のないこの領域を確実な基盤とすべきなのだ。中道左派票を確保しつつ、中道右派までウイングを広げれば、得票が増大することは火を見るよりも明らかだ。

第二に、このためにも、ウェルビーイング(幸福)、価値共創、共生、公正などの価値理念を、より明確にすること。AIエンジニアが立ち上げたチームみらいの躍進は、特に若い層に、テクノロジーやデジタル民主主義の訴求力があることを示している。この点で、科学的なポジティブ心理学の示すウェルビーイングの考え方は、伝統的な「幸福」という言葉と共に用いることによって、訴える力を増すと思われる。

そして、これに基づいて、生活苦に悩む人々に、ポピュリズムが語る「偽りの物語」ではなく、真実に基づく「希望の物語」を指し示すことが可能になる。科学的根拠に基づいたポジティブな政治経済のビジョンを本格的に訴えれば、ブームを巻き起こす可能性すら考えられる。「中道」と「連合」は変えない方がいいだろうが、このために、よりインパクトのあるポジティブな党名(たとえば中道共生連合)へと部分的に改名することも考えられよう。

第三に、理想主義的現実主義の方針と政策を確立すること。原発や安保法制については先月に述べたが、次の主戦場は憲法改定そのものだろう。この時に、非核三原則だけではなく専守防衛という平和憲法の核心を死守することが中道には求められる。右翼は本格的な集団的自衛権行使を擁護して海外での戦争への道を開き、左翼は非武装中立論という理想を固守する。これに対して、理想主義的現実主義が専守防衛である。トランプ政権によってアメリカの戦略が大変貌を遂げている今、この理念こそが、理想主義的にして、中国との衝突回避においても、ますます現実性を増しているのである。

第四に、今回の選挙が明らかにした制度的な問題点を主要な変革の課題として訴えていくことも不可欠だ。「与党が恣意(しい)的に自分に有利なタイミングで衆院を解散できなくすること。選挙期間を十分に取って、公共的な議論をしっかりとできるようにすること。(今回の選挙なら)外国居住者や雪国居住者の参政権を事実上、奪わないこと。SNSや動画などについても、収益目的の活動も含めて選挙運動規制を行い、お金で選挙結果が過度に左右されないようにすること」――これらは、左右を超えて、民主主義にとって肝要だ。徳義共生主義(特にその一翼をなす共和主義という思想)は、このような制度変革も、独裁を防止するために不可欠として主張するのである。

平和への大結集――左右を超えた理性・倫理の連合

冒頭に述べたように、生活苦の激化と戦争の危機が迫ってくるにつれ、「平和への結集」は、より差し迫った課題となるだろう。選挙戦の最終盤で「#ママ戦争止めてくるわ」という投稿がXのトレンドとなったのは、この先駆だ。この局面では、れいわ新選組や社共のような左翼政党とも連携することが大事になる。このためには、中道と左翼政党との間の「オリーブの木」方式が望ましいだろう。

もはや時の対立軸は左右対立から、理性・倫理と感情・気分・ムードとの対立へと移っている。この選挙の前後に、日本経済新聞をはじめ経済界の論調が与党に厳しくなったのはその証左だ。経済合理性から見ても、高市ポピュリズムが危険な段階に達しているからだ。

同様に、この選択は、宗教性や精神性を尊ぶ全ての人にも迫っている。選挙後に、首相は靖国参拝の「環境を整えるために努力している」と述べた(2月8日)。食料品減税の財源として、宗教法人への課税という案が話題になっている。これは、創価学会だけではなく、他の全ての宗教団体に及びかねない。多くの宗教が財政的に厳しいので、伝統的な神社仏閣も含めて、窮迫したり解体したりしかねない。これは、日本という国家の宗教的・精神的危機と空洞化をさらにもたらすに違いない。多くの健全な宗教は、平和を祈ってきた。戦争への潮流は、これらも圧迫していく。だから、特定宗教だけではなく、キリスト教や仏教、(国家主義的でない)神道をはじめ宗教性・精神性を重んじる人々の広範な連携が必須だ。このような連帯が成り立てば、先述した公明党アレルギーも薄まるだろう。

よって、戦争の危険を回避するためには、従来の左右対立を超えて、経済界や宗教界も含めた「平和への大結集」の実現が必要だ。従来のリベラリズム政治がほとんど灰燼(かいじん)に帰した今、理性と倫理性・精神性に立脚した大同団結が、次の国政選挙あるいは憲法改定の国民投票までに求められている。

儒教が説くように、覇道政治は永続せず、いずれは人心を失って滅びるのが世の常だ。覇道に対して理想政治は王道と呼ばれ、王道は中庸にあり、とも説かれてきた(安岡正篤など)。中道が立ち直って国難を乗り越えられれば、宗教性・倫理性に基づいた政治という理想が日本に根付くことになる。これは希望の核心である。中道の敗北は終わりではない。その担い手は、新しい誰かではなく、すでに政治経済・市民社会・宗教・知の現場に存在する、理性と倫理を重んじる人々そのものである。倫理的中道の再生成こそが、次の時代の出発点なのである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院社会科学研究院長、千葉大学公共研究センター長で、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘(しょうへい)教授兼任。専門は公共哲学、政治哲学、比較政治。2010年に放送されたNHK「ハーバード白熱教室」の解説を務め、日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。日本ポジティブサイコロジー医学会理事でもあり、ポジティブ心理学に関しては、公共哲学と心理学との学際的な研究が国際的な反響を呼んでいる。著書に『サンデルの政治哲学』(平凡社新書)、『アリストテレスの人生相談』(講談社)、『神社と政治』(角川新書)、『武器となる思想』(光文社新書)、『ポジティブ心理学――科学的メンタル・ウェルネス入門』(講談社)など。