『現代を見つめて』(10) 文・石井光太(作家)

個々の特性に合わせた良薬を

若者が弱くなっていると言われている。学校で人付き合いに失敗すれば不登校になり、家で怒られれば引きこもり、会社に就職しても辞めてしまう。そんな若者が増えているのだ。

都内の中学校の教師が話していた。

「人間としての幹が細くなっているんです。だから、少し風が吹いただけで折れてしまう。具体的にいえば、誰もがするような失敗一つで、心が折れてダメになってしまう」

いつから、そうなったのだろう。

彼の記憶では、九十年代の半ばが転換期だったという。学校の子供たちがすぐに傷ついて自分の殻にこもるようになった。どうしてかと思っていた矢先、保護者会の最中に母親たちが流行していた携帯ゲーム「たまごっち」をやる姿を見かけるようになった。親が保護者会で恥ずかしげもなくゲームをしているのである。

きっと家庭でも同じなのだろうと思った。親子の関わりが希薄だから、子供は友達とのつながり方がわからないし、つながろうとしない。その結果、すごく繊細になって小さな出来事一つで傷ついて立ち直れなくなる。

長らく少年刑務所で働いていた法務教官は、こう表現した。

「人との付き合いや会話にはちょっとした刺激物が含まれていますよね。こういう刺激物って生きる上での栄養素なんです。人はそれを少しずつ摂(と)ることで免疫がついて土台がしっかりする。だから、ちょっとやそっとのことでは倒れないようになる。それがない人は、栄養失調状態なんです」

私はふと「良薬口に苦し」という言葉を思い出した。人間関係には甘いものだけでなく、苦いこともたくさんある。いや、苦いことの方が多い。それを人の特性に合わせて適度に摂らせることが、人間の土台としての幹を太くさせる方法なのだ。

今の状況をつくったのは、ゲームだけが原因ではない。パソコン、携帯電話、社会制度、生活形態、職場環境など様々な環境が人と人との関係を薄め、栄養失調の状態を生み出したにちがいない。

現代の若者が弱くなったと嘆くだけでは解決にならない。いかに、良薬となりえる人間関係を構築していくか。それは人間関係というものだからこそ、国や他人に任せて知らん顔するのではなく、一人ひとりが自発的に考えて行動していくべき課題なのだと思う。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)など著書多数。近著に『世界の産声に耳を澄ます』(朝日新聞出版)、『砂漠の影絵』(光文社)がある。