現代を見つめて(74) 救済型から活躍型へ 文・石井光太(作家)

救済型から活躍型へ

秋田県の藤里町は、「大人のひきこもりゼロ」で知られる町だ。現在の人口は三千人に満たないが、少し前まで大人のひきこもりが百人を超していた。それを藤里町社会福祉協議会が数年で、実質ゼロへと改善させたのである。

日本の中高年のひきこもりは、推計で六十一万人といわれる。鳥取県の人口より多い数である。「8050」や親への経済虐待といった問題を引き起こす要因になるとされ、大きな社会課題となっている。

藤里町で行われた取り組みとは何だったのか。先日、この取り組みを主導した同協議会会長の菊池まゆみさんに話を伺ったところ、その秘訣(ひけつ)をこう語っていた。

「福祉の活動には、“救済”みたいな考え方があるじゃないですか。でも、ひきこもりの当事者さんに聞いてみると、みなさん『社会で活躍したい』って言うんです。それなら、彼らを助け出すのではなく、働くことを応援する“活躍型支援”に切り替えようと考えたのです」

ひきこもりの当事者は、怠けたいとか、遊びたいと考えているわけではない。本心では社会で活躍して認められたいと思っているのに、家庭の事情、不景気、障害、疾患など様々な事情で叶(かな)わない人がほとんどだ。周りはそれを理解せず、叱りつけるか、助け出そうとするから、衝突してしまう。

藤里町は、救済ではなく、活躍を支援する方針に切り替えた。中間就労のカフェをつくり、そこで社会へ出るためのリハビリをしてもらいながら、様々な職業体験をさせる。そして町を挙げて個々に適した職場を見つけ、ただ働くのではなく、活躍してもらうのだ。これがひきこもりゼロを実現した。

もしかしたら他の社会課題も同じなのかもしれない。障害者施設にいる人たちも、依存症の回復施設にいる人たちも、炊き出しに並ぶ人たちも、インタビューをしてみると、みんな「できるなら働きたいよ」と口をそろえる。

彼らは施設や公園でじっとしていたいわけではない。やり方がわからないだけで、本当は社会へ出て活躍したいのだ。どんな人にもその人に合った活躍の場はある。

救済型から活躍型支援へ。日本の福祉がいろんな点で限界にきている今、取り組む姿勢を根本から変える時期にきているのかもしれない。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。

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