現代を見つめて(69) つながりと孤立 文・石井光太(作家)

つながりと孤立

昨年日本は、イギリスに次いで世界で二番目となる「孤独・孤立対策担当大臣」を設けた。様々な社会問題の根っこに孤独・孤立があるとし、予防と解決に向けて動き出したのだ。

かつて孤立といえば、村八分のように集団から排除されることを意味していた。横のつながりが絶たれ、支援者を失うというものだ。だが、近年の孤立は、必ずしもそのようなものとは限らない。

典型的な例が、高齢者の自殺だ。高齢者自殺の一番の要因は「健康問題」だ。実はこうした自殺、一部の地域では独居の高齢者より、配偶者や子供家族と同居している高齢者の方が、割合としては高いのだ。

なぜか。彼らは次のように考えるからだ。

「同居している家族に自分の介護をさせることで迷惑をかけたくない」

家族の重荷となるのを恐れて、死を選ぶのである。

また、近年問題になっているのが、「同居孤独死」だ。一つの家で二世帯や三世帯で暮らしているにもかかわらず、同居人がその死に四日以上気づかずに放置してしまう状態を示す。

全国的な独居孤独死の統計は出ていないが、二〇一七年~二〇一九年の三年間で、東京二十三区と大阪市、神戸市だけで計五百五十二人に上ったというデータがある。家族が一緒に暮らしているにもかかわらず、関係性が希薄であったり、地域とのつながりが乏しかったりすることが原因だ。

私もこの種の事件を何度か取材したことがあるが、家族は次のように述べていた。

「一緒に暮らしていたけど、深く関わる必要もないから、完全に別々に生活をしていた」

こうしてみていくと、現代の孤立の問題は物理的な距離だけでなく、家族や地域との精神的な距離が関係しているといえる。

かつて人と人とのつながりは血縁や地縁にあった。それが人と人とが助け合う理由だった。だが、今は違う。人は「相手とつながるメリットがあるかどうか」を考え、付き合い方を選ぶ。メリットがなければ、たとえ同居していたとしても、まったく関わろうとしない。

日本の孤立の問題を解消するには、人とつながる理由そのものを根本から考え直していく必要があるのではないか。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。

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