現代を見つめて(68) 他者の声を聴く 文・石井光太(作家)

他者の声を聴く

二〇二二年は寅年(とらどし)だ。みなさんが、今年もらった年賀状の虎の絵は何色で描かれているだろうか。

日本人の多くは、黄色と黒色で虎を描くそうだ。だが、実際の虎は少し赤みがかっているため、世界的にはオレンジ色と認識している人の方が多いらしい。

ただ、国によっては、赤色、金色、茶色で描くところもあれば、白色を含む三色で描くところもある。そもそも黒の縦じまが、まだら模様として描かれることもある。虎の種によって毛色は若干異なるし、顔がまだら模様の種もいるので、どれも間違いというわけではない。もっとも、虎の獲物である鹿は、人間とは色覚が異なるので、虎が緑と黒の迷彩色に見えているそうだ。

こうしてみると、国によっても、誰が見るかによっても、虎の色や模様は千差万別であることがわかる。

唐突だが先日、ある大企業の社長から、こう悩みを打ち明けられた。

「今のエリート意識の高い人たちは、理論武装して自分の考えを絶対だと信じ、他人を言い負かすのが一流だと勘違いしています。でも、グローバルな時代に必要なのは、多種多様な人や考え方を受け入れてまとめていく力なのです。学校も社会も、なかなかそういう力の大切さを説かないし、身につけさせようとしない。それこそが、日本がグローバル化に乗り遅れている原因の一つかもしれません」

一時代前まで、日本人は外国人に負けないように自己主張をすべきだと言われてきた。だが、あらゆる異なる人たちが交じり合って地球の持続可能性を保っていこうとする現代では、主張を押し通すより、対話を重ねながら他者の言葉に耳を傾ける能力の方が求められる。ビジネスシーンでなくとも、複数の個性が共存する地域だって、集団だって同じだろう。

虎の話を思い出してほしい。「虎は黄色に決まってる!」と相手を言い負かす力と、世の中にいろんな見方があるのを前提にして虎の魅力を話し合える力、どちらが時代に求められているだろうか。

昨年は「論破」という言葉が流行(はや)った。子供たちの間でも、「論破!」と叫んで人を言いくるめる遊びがあったと聞く。だが、今年は、他者の声に耳を傾けられる空気がより広まってほしいと願う。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。

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