利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(58) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
慈愛の養育法
まず初めに大事なのは、幼児をしばしば温かく抱擁して、愛情深く育てることだ。当たり前のようだが、この重要性はいくら強調しても、し過ぎることはない。
これは、動物実験でも、幼児の研究でも明らかになっている。たとえば、猿の赤ちゃんは、空腹時以外には、授乳ができる針金製の人形よりも、しがみつける布製の人形を好んだし、孤児たちは養育者との持続的な愛情の絆がないと心身の健全な成長が難しかったのだ。
最近は共働きなどで忙しい両親が多いから、つい子供に愛情を込めて直接に抱きしめ育む機会が少なくなりがちだ。でも、うっかりしていると健全な発育が難しくなりかねない。手間暇を惜しまず、慈愛の心で、肌身に触れながらわが子を抱き育んでいくことこそが大事なのである。
明るい気持ちを育む
次に、6歳くらい、つまり小学校1年生くらいまでは、無条件に温かい(ポジティブな)環境を築くことによって、明るい気持ち(ポジティブな感情)を育てることが大事だ。
躾をするつもりで怒りやお仕置きが度を越えてしまうと、幼児は萎縮したり脅えたりして、不安感に苛(さいな)まれ、暗い気持ちになりがちだ。これでは、人間や世界に対する基本的な信頼感を持てなくなってしまう。これが、前述したように、子供たちに生気がなくなってしまう一因となる。
逆に、少々の問題があっても寛容に許して優しく注意するように心がけ、基本的にはいつも伸び伸びと明るい気持ちで過ごすことができるようにするのが望ましい。すると、子供は心理的に安定して、自分に自信や自尊心を持ち、将来難局に出会っても、あまり滅入(めい)らずに乗り越えていくことができるようになる。
ポジティブ心理学は、明るい感情を持つ比率が増えると、精神性や知性が広がり、長期的にはこれらの能力が高まる傾向があることを科学的に実証した。幼い頃にこそ、明るい感情が定着するように育んでいきたいものだ。