共生へ――現代に伝える神道のこころ(8) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部准教授)

細かな意匠が各地で異なる狛犬の奥深さ

今回はやや重い話から始めてしまったが、神社に置かれている狛犬は、読者の方々も知るような凜々(りり)しい立ち姿のものばかりであり、砲弾を抱く狛犬は極めて珍しいケースである。子供の狛犬を抱き、狛犬の親子で一つの台に据えられている狛犬や鞠の上に乗るもの、鞠を抱くもの、お城の屋根に置かれるシャチホコのように海老反りしたような形のもの、尾が立つもの、寝るものなどさまざまな形があり、思わず微笑(ほほえ)んでしまうようなコミカルな姿のものもある。

また、狛犬自体の大小はもとより、奉納される年代によっても特徴がある。江戸期に奉納された狛犬などは、当時の石工らがその技術を競うかのごとく制作されている場合もあるほか、ある特定の地域の狛犬の形が別の地方に伝播(でんぱ)するなど、狛犬の形状にも分類、地域差が見られる。例えば、岡山県では県内の石工の手によるもののみならず、備後尾道の石工や、讃岐小豆島の石工が制作したものも多く見られ、備前焼の狛犬もある。また、鳥取市の賀露(かろ)神社には笏谷石(しゃくだにいし)で作られた越前狛犬と呼ばれる形式の狛犬が現存し、北前船が寄港する地の神社に奉納されていることが多い。

一方で、千葉県流山市の諏訪神社のように、長崎県の平和祈念像を制作した彫刻家・北村西望氏による狛犬が、同じく北村氏作の源義家の献馬像とともに境内に安置されている神社もあり、美術品としての価値も非常に高いのではと思われる狛犬もある。近年では、個人でインターネットのウェブサイトを開設し、各地の狛犬の写真を掲載している民間の狛犬研究家が存在する。そのほか狛犬博士として知られた上杉千郷氏による『狛犬事典』(戎光祥出版)なども出されており、一社ごとの神社の由緒や特徴と同様、細かな意匠が異なるなど実に奥深いのが狛犬でもある。

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