共生へ――現代に伝える神道のこころ(5) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部准教授)
各神社に興味深い由緒やご利益も
次いで八幡神。全国で稲荷神社とともに最も数の多い社として知られている。前出の岡田氏によれば、小祠や摂末社なども含めると全国に約二万五千社あるとされ(一説には約四万社とも)、人々に最も身近な社の一つである。関東では八幡神を氏神とした源氏ゆかりの神社として、鎌倉の鶴岡八幡宮が著名である。八幡神は仲哀天皇と神功(じんぐう)皇后との間に生まれた誉田別尊(ほんだわけのみこと)(応神天皇)のことで、八幡神社ではおおよそ八幡神とともに、神功皇后と比売大神(ひめおおかみ)が祀られている。大分県の宇佐神宮が総本社で、宇佐神宮は欽明天皇三十二(五七一)年に創祀されたと考えられている。貞観元(八五九)年には、南都大安寺の僧・行教が宇佐神宮にて八幡大神より「吾れ都近き男山の峯に移座して国家を鎮護せん」との託宣を受け、同年に京都府の男山に御神霊を御奉安して創建されたのが、石清水八幡宮である。その後、同八幡宮が国家鎮護の社として皇室からの御崇敬が篤(あつ)いものとなり、伊勢の神宮に次ぐ国家第二の宗廟(そうびょう)と称されるに至った。中世以降、鎌倉に幕府を開いた源頼朝をはじめとする東国の武士や、九州の武士の篤い信仰を集めたことから、全国各地に勧請され、武運、勝負、厄除開運などに御神徳がある神として信仰を集める社となっている。
スペースの関係もあり、ここでは全ての神々や神社の御神徳を縷々(るる)述べることはできないが、各神社をお参りする際に、ぜひ見てほしいのは、由緒書(由緒板)である。先に述べた通り氏神神社は、地域のかかりつけ医のような存在であるが、参拝する神社がどのような祭神を祀っているのかを確認してお参りするだけでも、祈願する事柄は変わるかもしれない。
小生は極端な御利益信仰を好まないが、個々の神社に社名を含め、実に興味深い由緒や御利益が存在する場合もある。先日、ある方から「驚(おどろき)神社」なる社名の社の存在を教示して頂いたが、その由緒にまさに驚いた次第である。読者の方々にはぜひ、各地の神社をめぐり、ぜひとも多くの神々の御利益にあずかって頂きたい。
(写真は全て、筆者提供)
プロフィル
ふじもと・よりお 1974年、岡山県生まれ。國學院大學神道文化学部准教授。同大學大学院文学研究科神道学専攻博士課程後期修了。博士(神道学)。97年に神社本庁に奉職。皇學館大学文学部非常勤講師などを経て、2011年に國學院大學神道文化学部専任講師となり、14年より現職。主な著書に『神道と社会事業の近代史』(弘文堂)、『神社と神様がよ~くわかる本』(秀和システム)、『地域社会をつくる宗教』(編著、明石書店)、『よくわかる皇室制度』(神社新報社)、『鳥居大図鑑』(グラフィック社)、『明治維新と天皇・神社』(錦正社)など。
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