『利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(37)』 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

コロナウイルスの災厄

この1カ月の間に、新型コロナウイルス感染症の問題で、世界の混乱は深刻度を増した。日本では当初は対処が遅れ、首相は専門家の意見を聞くことなく独断で決定を繰り返した。

十分な対策や補償なしに学校を一斉に休校にするように突然要請したことで、子供や親、家計や経済に広範な影響が及んでいる。また、中国と韓国からの渡航を大幅に制限し、新しい法律を作って緊急事態宣言を可能にしようとしている。韓国は日本に対して、事実上の対抗措置を取って日本のビザ免除を停止して、日韓関係も再び緊張が高まっている。

今回のような一斉休校は戦時中の疎開以来だから、平時ではない状態に突入してしまったことは確かだ。前回(第36回)には、「護国三部経」で描かれている災厄に今の日本が似てきていると書いたが、まさしくその通りの様相を呈してきた。疫病の流行は、その種の災厄の最たるものなのだ。

しかも人為的要因もある。大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に対する政府の対処が失敗して感染者が増え、下船後にそのまま帰宅させて、さらに感染が判明した。政府は感染の検査に消極的で、軽症のうちは受診しない方針としたので、検査を要望しても検査ができない人が続出した。だから他国と比較すると、日本の検査数は圧倒的に少ない。しかも政府は感染症対策に予算を僅(わず)かしか出さないのである。

国家が崩れつつある時

他にも異常な事態が進んでいる。「桜を見る会」をめぐっては、政府の説明に反する事実が次々と明らかになってきているし、「カジノ疑惑」では担当副大臣だった衆議院議員が昨年12月に逮捕された上に、自民党議員夫婦の秘書らが公選法違反で3月3日に逮捕された。

政権が信頼する東京高検・検察長の定年を延長させるために、専門家が全員一致して違法とする法律解釈に突然変更してしまった。いつどのように変更したかを問われて、国会で法務大臣が口頭で決裁したと答弁している。

近代の法治国家では、これはあるまじきことだ。これが認められるのならば、文書がなくても口頭で法律の解釈を変えられることになるから、日本は法治国家ではなくなってしまう。安全保障関連法が「成立」して平和憲法が形骸化してから、日本では権威主義化が進んでいるが、まだ独裁ではなかった。諸機関が法律に即して自律的に動いており、全てを政府が決めることはできないからだ。ところが、政府が口頭で法律の解釈を恣意(しい)的に変えて検察の人事を決めることができるようになれば、三権分立も崩れるし、単に権威主義国家というだけではなく、独裁国家になってしまう。

これらは、民主主義国家としては常軌を逸していると言わざるを得ないだろう。独断的な判断によって、このままではコロナウイルスによる人命の犠牲が大きくなってしまいかねない。すでに進行している経済的下降がこれによって激烈になっていくことも容易に予想できる。

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