利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(26) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「麗しき和(平和な日本)」の生成を

近代西洋文明自体が危機に陥っているのだから、新しいビジョンを自分たちで提起するしかない。そのために、日本の伝統的文化に目を向けることは悪いことではない。でも大事なのは、中国文化をはじめ他の大文明の影響のもとにそれが生成発展してきたということだ。

今後は西洋文明の成果を踏まえて、新しいビジョンを日本の内部から提起していくことが必要だ。この点を確認するために、漢籍の影響下に成立した日本古典に年号が由来することは悪いことではない。

「令」という字は、もともとは単なる命令を意味するのではなく、神意を聞くことを示している。それゆえ、宗教的・精神的な意義を持っている。だから「令名・令嬢」というように気品を持った高貴な麗しさや良さ・美しさを示すのだ。

西洋的な政治経済の動揺は、実は文化の衰退に基づいている。この世界史的な難局を乗り越えるためには、精神的な復興が必要だ。「令」はそういった宗教的・倫理的な質の高さをも示しうる言葉だ。

よって「令和」とは、高い精神に基づいて麗しい「平和」を実現することを意味しうるし、さらには、麗しき和の国・日本の実現という目標を示すこともできる。現政権の思惑とは別に、こういった理想を年号に観(み)て、徳高き「麗しき和(平和・日本)」を意味する「令和」モデルを、「令和」時代に生成していきたいものである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など