利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(26) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

近代西洋的な政治経済の動揺

前回に書いた文明論的観点から言えば、近代西洋文明は政治的には自由民主主義の制度を実現し、経済的には市場経済ないし資本主義のシステムを築き上げた。日本も幕末に黒船が来航して、植民地化の危険を感じた志士たちが立ち上がり、明治時代へと入ったわけだ。昭和時代には敗戦を経て、戦後に高度成長を果たした。ところが平成の末期になって、経済的にも社会的にも日本は衰退しつつある。

もっとも、これは日本だけでなく、いわゆる先進国で類似した現象が大なり小なり見られている。経済的にはリーマン・ショックによって資本主義経済が危機に瀕(ひん)した。自己利益の追求を肯定する政策(ネオ・リベラリズム)の結果、非倫理的な私益追求が横行したからだ。それを何とか乗り越えたものの、先進国の経済成長は鈍化している。

政治的には、戦後の中心国アメリカでトランプ大統領が「アメリカ・ファースト」を唱えて、自国だけの利益を追求している。イギリスはEU離脱を決め、円滑に進まずに政治的に混迷を深めている。フランスでも政権は動揺していて、極右政党の勢いも侮れない。先進国でも市場経済や自由民主主義に深刻な影が兆しているのだ。

先進モデルの消滅

日本でも、安倍政権がアベノミクスという経済政策を掲げていたが、目標達成に失敗し、政治的には相次ぐ強行採決や不祥事によって議会制民主主義を形骸化させている。

このような政治が続いているのは、野党が不甲斐(ふがい)ないからだという意見をしばしば耳にする。なぜそのように見えるのだろうか。政権が行き詰まると新しい政治を提唱する勢力がこれまでは現れたのだが、その多くは先進国で登場した新しい政治的潮流を唱えるものだった。ところが、今や英米仏などの政治も深刻な混乱状態に陥っている。新しい政治のモデルを他の国に求めることは難しい。だから、野党も精彩を欠いているのではないだろうか。

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