おもかげを探して どんど晴れ(12) 文・画 笹原留似子(おもかげ復元師)
私は「死」の専門家です。亡くなられた方の体のことをよく知っていて、損傷の激しい遺体を生前の姿に戻すことができる復元師という専門職に就いています。だから、伝えることができます。寿命も、死を迎える方法も、みんなそれぞれ違います。そして、死を迎えた方が遺(のこ)してくださる大切なメッセージは、「明日、誰も生きる保証がない」ということです。
大切な家族が亡くなった現場では、多くの遺族の方が「後悔」を口にされます。後悔は、大切な方に向けられるもので、人に備わった大切な感情です。後悔の念があることによって、大切な人を思い続けるための方法を探します。遺族は悲しみに暮れ、その悲しみの深さを知った時、悲しみの深さの分だけ、自分が愛されていたことを知ります。愛情の深さは、悲しみの深さに等しいというのも、事実です。悲しみの中には、大切な思い出があります。悲しみの中身は、つらく苦しいことばかりではなく、分解してみると深い愛情や関係性の中にあった安定(感)も含まれていて、そのことにも出会います。
関係性の中の安定は、大切な方の死を迎えると、一度崩れ、不安定をもたらします。不安定になると人はペースを乱します。一度ペースを乱すと、それ以上ペースが乱れないように、人に会うことを避け始めます。悲嘆の中にある引きこもりは、自分を守るためであって、時として大事な行動の一つでもあるのです。
「不安定な中」という状態は必要なもので、自分と向き合う大切な時を迎えていると言えます。ただし、向き合い方を間違わないようにしましょう。自分を責めるのではなく、自分に問うようにします。話を聞いてくれる人が必要であれば、聞き上手な人を選びましょう。一緒に悩んでくれる人はもちろん大事。もっと大事なのは、問いを立ててもらうということ。混乱している今の自分を「鳥の目」のように俯瞰(ふかん)してもらって、必要な問いを立ててもらいます。これは、自分でできる人もいるので、必ずしも誰かに頼む必要はありません。最も、大切な方を亡くして、最初から穏やかで安定している人なんて、世の中に一人もいません。不安定になるのは、そのくらい、自分にとって大切な人だったということです。
※タイトルにある「どんど晴れ」とは、どんなに空に暗雲が立ち込めても、そこには必ず一筋の光がさし、その光が少しずつ広がって、やがて真っ青な晴天になるんだよ、という意味です
プロフィル
ささはら・るいこ 1972年、北海道生まれ。株式会社「桜」代表取締役。これまでに復元納棺師として多くの人々を見送ってきた。全国で「いのちの授業」や技術講習会の講師としても活躍中。「シチズン・オブ・ザ・イヤー」、社会貢献支援財団社会貢献賞などを受賞。著書に『おもかげ復元師』『おもかげ復元師の震災絵日記』(共にポプラ社)など。
インタビュー・【復元納棺師・笹原留似子さん】死者と遺族をつなぐ 大切な人との最後の時間をより尊いものに