利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(22) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
今日における薩長同盟とは?
今の時代でこれに対応する同盟とは、まさしく専制化しつつある政府を打倒するために諸野党が手を結ぶことだろう。通常ならば理念や意見が違って相互に対立している政党が、倒幕のために同盟を形成すること――これが現代の薩長同盟に他ならないだろう。
安保法制に対して野党連合が提唱された時に、私は薩長同盟を思い出した。共産党とその他の野党との間には深い溝があったからだ。その思想的相違を指摘して野合と批判する人がいるが、それを乗り越えるからこそ、薩長同盟のように歴史が動く可能性が生まれるのだ。
選挙での野党協力が一部で成立したものの、それはまだ本格的には実現していない。この連合に左翼政党が加わるからといって、恐れる必要はないだろう。明治維新の時も、新政府は「五箇条の御誓文」で公論を高らかに謳(うた)った。仮に野党連合が成功して政治的変革を実現する時が来るとしても、そこに成立するのは、やはり公共的政治のはずだ。
志を共にする人々が、明治維新を振り返ることによって公議・公論・公道という公共的政治の大義を再確認し、薩長同盟のようにお互いの壁を越えて、再び「維新」の大変革を達成する。人々が今も龍馬に感じるようなロマンは、ここにも存在しないだろうか。
4回にわたって明治維新を考えてきた。いま維新を称えようとする人々の多くとは、違う見方もあったに違いない。歴史の解釈と活かし方によって、未来の歴史は変わってゆく。年の瀬にあたって150年間の歴史に思いを致し、次の50年に活かしていきたいものだ。
プロフィル
こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。
利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割