おもかげを探して どんど晴れ(10) 文・画 笹原留似子(おもかげ復元師)
先日、いのちの授業で、質問をしてくれた中学3年生の男の子がいました。
「僕が生まれてすぐに、おじいちゃんが死んでしまいました。お母さんが教えてくれたことは、僕が生まれた時におじいちゃんは大泣きして、僕を抱きしめて、とても喜んでいたのだと聞きました。僕は、この年になるまでおじいちゃんを忘れたことがないし、本当は幽霊でもいいから会いたいと毎日思っています。人は二度死ぬという話を聞いたことがあります。一度目は生命活動を終えた時、二度目は人の心から、亡くなった人のことが失われた時と教えてもらいましたが、僕がおじいちゃんを忘れなければ、おじいちゃんは二度目の死を迎えなくて済みますか? おじいちゃんは、今でも僕のことを愛してくれていますか? 僕は、記憶がないけれど、おじいちゃんが大好きです」
おじいちゃんが彼を目いっぱい愛したこと、そしてお母さんがおじいちゃんのことを語り継いでくれている事実が、今の彼をつくっています。彼は、お母さんや亡きおじいちゃんから、いのちの使い方をよく学んでいると思いました。私が答えたのは、以下の通りです。
「実はあなたは、おじいちゃんといつも、今も一緒にいますよ。おじいちゃんの遺伝子が、あなたの中に存在しているのですから、いつも一緒です。あなたがおじいちゃんを深く思っていることは、おじいちゃんのあなたへの深い思いを、あなたがキャッチできているということなのではないでしょうか。生きるということは、亡き人たちが自分の体の中に遺伝子という形でいて、共に生きてくれているということなんだと思います。だから、人は決して一人ではありません。悩みがあったり、うれしいことがあったりした時に、自分の中に遺伝子としていてくれるおじいちゃんに、報告したり、相談に乗ってもらったりしてはどうでしょう? そういう時に出会う人は、おじいちゃんが連れてきてくれた人です。おじいちゃんは自分では語れないから、人を介してきっと思いを伝えてくれると思います。昔から日本の民俗風習に、そういう考え方があります。これからもずっと、自分の中のおじいちゃんを、大切にしてあげてくださいね。遺伝子って、すごいんだよ!」
彼は、ずっと悩んで自分に問い続けていた思いを、勇気を出して語ってくれました。この姿が最もお天道さまが好む姿であり、亡きおじいちゃんはご先祖さまの仲間入りをされているのですから、まさにこの姿が、ご先祖さまの供養と言えるのではないでしょうか。そんな彼を、お天道さまが応援しないわけはないし、おじいちゃんは立派になった孫の姿を見て、にこやかに目を細めて、鼻も高々になっていることでしょう。
私は彼の質問を受けながら、彼のおじいちゃんに選ばれたのだと思いました。ですから、おじいちゃんの気持ちになって目いっぱいの愛情を込めて、伝えました。
天賦の才とは、いのちの質を深く見つめ、上手な使い方ができるように努力を惜しまない人に与えられた、幸せの一つなのだと思います。
大切なのは、何歳まで生きたかよりも、どのように生きたのかということです。
天賦の才は、一人ひとりに天が与えているものです。それに気づき、表現できるかは、その人の生き方の質次第ということなのだと思います。
※タイトルにある「どんど晴れ」とは、どんなに空に暗雲が立ち込めても、そこには必ず一筋の光がさし、その光が少しずつ広がって、やがて真っ青な晴天になるんだよ、という意味です
プロフィル
ささはら・るいこ 1972年、北海道生まれ。株式会社「桜」代表取締役。これまでに復元納棺師として多くの人々を見送ってきた。全国で「いのちの授業」や技術講習会の講師としても活躍中。「シチズン・オブ・ザ・イヤー」、社会貢献支援財団社会貢献賞などを受賞。著書に『おもかげ復元師』『おもかげ復元師の震災絵日記』(共にポプラ社)など。
インタビュー・【復元納棺師・笹原留似子さん】死者と遺族をつなぐ 大切な人との最後の時間をより尊いものに