『現代を見つめて』(25) 進む「個室化」の背景 文・石井光太(作家)

進む「個室化」の背景

二〇一八年四月、新年度が始まって早々、脱獄のニュースが世間を騒がせた。

愛媛県今治市にある刑務所施設から 窃盗罪などで服役中の二十代の受刑者が隙を見て逃げ、二十二日間にわたって離島などに潜伏した末に、広島市内で逮捕されたのである。

逮捕後、犯人は逃走の理由をこう述べたという。

「刑務官や受刑者との人間関係に悩んでいた」

普通に考えて、刑務所から脱走して逃げ切れるわけがない。出所までわずかだったのに、なぜこんなつまらないことをしたのだろう。

実は今、刑務所では集団生活ができない受刑者が増加し、「個室化」が進んでいるのをご存じだろうか。

刑務所は「雑居房」と「単独室」に分かれている。通常は受刑者数人で雑居房に暮らすことになっており、問題を起こしたり、事情を抱えていたりした受刑者のみ、特別に単独室に入れられる決まりになっている。後者は、どちらかといえば、懲罰の意味合いが強い。

個室化の背景にある理由は、若者と高齢者で異なるといわれている。

若者の場合は、人間関係を築くことが苦手な受刑者が増えているためといわれている。かつては、社会から外れた若者は暴走族に入るなり、職人の親方に弟子入りして働くなりして、多少なりともコミュニケーション能力を身につけてきた。現在は、そうした受け皿が減る代わりに、不登校やゲーム依存が増え、他人とつながれない人が増えているらしい。

高齢者の場合は、身体的、精神的な問題が大きい。三十年前と比べて六十五歳以上の受刑者の割合が十倍に増えており、身体的に日常生活に支障をきたしたり、認知症の症状が出てきたりする者が少なくない。

こうした流れを受けて、旭川刑務所では全室個室となった。個室には、テレビ、ベッド、机、それにエアコンまで付いているのだ。これが最先端の刑務所であると考えれば、たしかに愛媛県の刑務所施設は「居心地が悪い」のかもしれない。とはいえ、刑務所は刑罰を与え、更生を促すための場所である。

高齢の受刑者はともかく、若い受刑者には社会できちんと他人とつながり、生活していけるだけの適応力を身につけさせてほしいと思う。彼らに対してそれができるのは、刑務所以外にほとんどないのだから。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)など著書多数。近著に『世界で一番のクリスマス』(文藝春秋)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)がある。