利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(15) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

地球的福祉は必要か?

こういった啓発運動にいつも立ちはだかる大きな問いは、世界の貧困問題の解決のためにどうして日本人が努力すべきなのか、ということだ。今は日本国内ですら、収入の格差が増大して貧困に苦しむ人が増えている。その人々を助けるだけでも大変なことなのに、遠く離れた地域の人々のためになぜ私たちが行動しなければならないのかという問いだ。

私は、世界的な貧困問題の解決という課題を「地球的福祉」と呼んでいる。一般に「福祉」という言葉は国内の問題にのみ使われることが多い。でも、同じ問題が地球のさまざまな地域に存在しており、国内と同じように大きな課題だということを認識しやすくするためだ。そうした研究のために地球福祉研究センター(現・公共研究センター)を千葉大学につくった。

利害を超えて人々を助ける気持ち

最も重要なのは、どれだけ多くの人々がこの問題に関心を持ち、そのために行動するか、ということだ。遠い地域のことだから直接に現地に行って支援できる人の数は限られているが、寄付をしたり、さまざまなアクションに協力したりすることは、気持ちさえあれば誰にでもできる。

でも、それは自分の利害とは直接の関係はないから、そのための動機をどのようにつくり出すか、ということが問題だ。ここにこそ、宗教の果たすべき役割がある。この連載のタイトルが示しているように、愛や慈悲に基づき、利害を超えて人々を救い助けることこそ、宗教の特質だからだ。

大学機関と宗教団体とが協力して「アフリカの新たなビジョン」のための国際会議が5月19日に開催される。私は「アフリカ白熱教室」というセッションで参加者の対話を促したいと思っている。日本やアフリカの政府関係者、市民、宗教者といったさまざまな人々が心を開いて対話を行うことによってこそ、新しいビジョンが開けるからだ。このような取り組みによって多くの人々が世界の貧困問題の軽減のために立ち上がり、新しい流れが広がっていくことを願いたい。

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プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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