利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(12) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

創造的な対話の場

さらに、参加者であれ講師であれ、しっかりと応答しようとして夢中で話しているうちに、「あれ? こんなこと自分は考えていたのだっけ?」と思うことすらある。相手の問いに触発されて、新しい考え方が閃(ひらめ)いて口をついて出ているような感じがするのだ。もちろん自分の過去の蓄積が素地となっているのだが、その内容はその場で湧出したように感じるのだ。

この点で対話は創造的な力も持つ。他人の発する問いを共に一生懸命考えることによって、自分一人では思いつかないような新しい大事な発想が誕生するからだ。対話とはまさに共同の創造作業なのだ。宗教的な場ならば、神仏のような目に見えない力がそこに働いていると感じることだろう。実は、創造的な対話によって、一流の思想や学問も作り出されていくのだ。

このようなことを感じると、建設的な対話の場に関わることが楽しみになるはずだ。参加者とともにその場も大事だから、それらの性格によってこういった対話の喜びがしばしば現れたり、あまり現れなかったりすることは確かだ。良質な場を見つけることができたら、そこに積極的に足を運んで、対話に参与するという喜びを味わったらどうだろうか。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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