法華経のこころ(17)
瓔珞・細輭の上服・厳飾の具を脱いで(信解品)
体じゅう汚いものにまみれて働いている窮子(ぐうじ)を哀れに思った長者は、首飾りや上等の服、その他の装飾品も脱ぎ捨てて窮子のそばにやってきた。自分の方から衆生に近づき救っていこうとする仏の働きである。
旧満州(現在の中国東北部)からの引き揚げ体験の取材をさせて頂いた時のことだ。私は、戦争体験者のTさんに電話を入れた。そして、1週間後、私はTさんの家を訪れた。
Tさんは私に、自分で描いた絵を何枚も見せながら、収容所での厳しい生活や帰国するまでの体験を説明してくれた。
一通り話を聞き終えて、私はTさんに尋ねた。「自分の体験を忘れまいとして描きつづっているのですか」と。
Tさんは答えた。「戦争を知らない記者さんに分かってもらおうと、電話をもらってから描き続けました」。そして、もう一つ、Tさんは、当時の食糧であったコウリャンも私に見せようとして米屋さんを何軒も歩いたという。
「でも、今はもうコウリャンなんて売ってないんですね」と話すTさん。その言葉に、私は温かみを感じた。そして、少しでも真実を語り継ごうと尽力してくだったTさんの姿を見て、戦争を“知った者”の責任を痛感した。
(N)
※瓔珞(ろうらく)・細輭(さいなん)の上服(じょうぶく)・厳飾(ごんじき)の具を脱いで
【あわせて読みたい――関連記事】
法華経のこころ(一覧)
法華経のこころ(一覧)
1 2