「箍の外れた世界が来るのか――戦争に揺れ動く中東とアジア」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

箍の外れた世界が来るのか――戦争に揺れ動く中東とアジア

米国とイスラエルは2月28日、イランに対する大規模な軍事作戦を開始し、3月1日現在も進行中だ。イランは、イスラエルのみならず、湾岸諸国にある米軍基地に対してミサイルやドローンを使っての攻撃で応酬している。そして、国営イラン通信は1日、国家最高指導者のハメネイ師(86歳)が米国・イスラエル両軍の攻撃で死亡したと伝えた。

ハメネイ師は、1979年のイラン革命(イスラーム革命)を指導し、成功へと導いた建国の父・ホメイニ師の後継者として1989年に就任し、イスラーム・シーア派による原理主義を基盤に約37年間にわたり統治してきた。だが、最近ではイスラーム原理主義政策の緩和と自由を求める民衆蜂起が絶えず、デモを暴力によって抑圧する同政権の政策が国際世論から非難されていた。

中東周辺に2隻の空母を派遣し、イラン攻撃の準備を進めていた米国のトランプ大統領は、インターネットへの投稿でハメネイ師を「史上最も邪悪な人物の一人」と定義し、「イラン国民が自国を取り戻す最大の機会」(2日付「47ニュース」)だと述べ、体制転換に向けて民衆蜂起を扇動した。また、ハメネイ師の後継者としては、「何人か良い候補者がいる」(同上)ともテレビのインタビューで発言し、米国・イスラエル寄りの政権誕生へ向けての示唆をもにおわせた。だが、このイランでの戦争が、イラクに飛び火する可能性も出てくる。過去に何度もあったように、イランの影響を強く受けるイラクのシーア派過激分子が、同国にある米軍基地の攻撃に出る可能性があるからだ。

トランプ政権は、ベネズエラへも軍事介入し、マドゥロ大統領を逮捕して同国の体制転換を試みており、隣国のキューバに対しても同様の転換を強要しようとしている。イランに対する攻撃を、「中東や世界全体の平和という目的の達成まで続ける」(同上)とトランプ大統領は豪語する。しかし、これに先立つ2月28日、世界教会協議会(WCC=プロテスタント諸派、英国国教会と聖公会、正教諸派などの世界合議体)のジェリー・ピレー総幹事は公表した声明文の中で、「軍事対立と報復の激化が持続性のある安全保障や平和をもたらすことはなく、(人々の)苦しみと、予想できない世界的な影響を与える、中東地域における紛争拡大の危険性を生み出すのみ」と述べ、「平和評議会」の終身議長である同大統領の発言を真っ向から否定した。

さらに、ピレー総幹事は米国とイスラエルによるイラン攻撃を、「危険な暴力の渦」と評し、攻撃が「数百万人の市民を即刻なる危険に陥れ、中東と国際レベルでの安全保障を危機に直面させ、中東全域で、すでに脆弱(ぜいじゃく)な経済と社会的な安定を脅かす」と警告する。国家間の対立は、国際法に沿って対話、折衝によって解決されるべきだとも主張し、「軍事活動の即刻なる停止」「一般市民の擁護と、国際人道法に沿った基本的なインフラの保全」「既成の地域、国際的な機構を通しての外交活動と政治対話の緊急なる再開」「さらなる激化の回避と安定の回復を目的とする国際協調」を主張している。「暴力は中東の未来を保障しない。正義と責任があり、支持された外交活動のみに、恒久和平の基盤を築くことができる」というのが、ピレー総幹事の結論だった。

ローマ教皇レオ14世は3月1日、バチカン広場で行われた日曜恒例の正午の祈りの席上、「中東、イランで進展している劇的な状況を、深い憂慮をもって見守っている」と発言し、「安定と平和は、相互間での恐喝、破壊、苦、死をもたらすだけの武器によっては構築できず、理に適(かな)い、公正で、責任ある対話によってのみ可能である」とアピールした。膨大な悲劇となり得る可能性を秘めた中東情勢に憂慮を表明する教皇は、紛争当事者たちに対し、「事態が修復できなくなる前に、暴力の渦を停止する倫理的責任を取るように」とも訴えた。外交が本来の役割を取り戻し、正義を基盤とする共生を希求する諸国民の共通善が促進されるようにと願い、参集した信徒たちに「平和のために祈り続けるように」と呼びかけた。

さらに、教皇はパキスタンとアフガニスタンの間で勃発した武力衝突に対しても憂慮を表明し、「緊急なる対話の回帰」を要請した。「47ニュース」は3月1日、アフガニスタンの首都カブールで同日に大きな爆発音と銃声が響き、パキスタン軍がタリバン暫定政権の軍事施設を空爆した可能性があると伝えた。また、「2月26日に起きた国境地帯での衝突後、死者はタリバン兵352人、パキスタン兵55人に上った」と伝えている。

1世紀の間に二つの世界大戦という悲劇を体験した人類は、その過ちを二度と繰り返すまいと誓い、国家間での紛糾を戦争によって解決することを拒否するために、多国間主義を基盤とする国際法を制定した。だが、その制定から80年が過ぎた今、米国、ロシア、イスラエルなどが国際法を無視し、軍事力や経済力を使っての、自国の国益を中心とする世界秩序の構築を目指すようになった。何百万にも及ぶウクライナ人、パレスチナ人、ベネズエラ人、キューバ人たちが、国際法という世界の箍(たが)を外そうと試みる自国第一主義の犠牲となり、苦しんでいる。同じ運命を、過去に度重なる経済制裁に苦しみ、耐えてきた、イラン人が負わされる可能性も出てきた。

世界のキリスト教徒の大多数を統括するバチカンやWCCは、国際法の遵守(じゅんしゅ)を訴え、自国中心主義の犠牲者たちを擁護し、彼らへの連帯を表明し続けているが、同じキリスト教を名乗るロシア正教や、トランプ政権を支える「MAGA(Make America Great Again)クリスチャン」たちは、どのような倫理規範に沿って動いているのだろうか。

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