利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(83) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

動乱時代に入った日本政治

自民党の6派閥の中で、裏金問題によって関係者が立件された安倍派・二階派・岸田派が解散を決め、続いて森山派や谷垣グループも解散を決定した。第81回の連載で書いたように、最大の権勢を誇った安倍派の解散には、多くの人が「盛者必衰(じょうしゃひっすい)――おごれる人も久しからず」(平家物語)という思いを抱いただろう。派閥が公式に解散したからといって、実体がなくなるとは限らない。けれども、安倍晋三元首相没後に集団指導体制になっていた安倍派は結集力を失うから、往時の力を復元することは難しいと思われる。

安倍政権の崩壊時(2020年9月16日)に、このような事態が4年後に現れると、何人が予見し得ただろうか。まさに栄枯盛衰、感無量である。振り返ってみれば、この展開は、安倍政権時における政治の私物化や、検察をはじめ他の機関の独自の意義や三権分立を損なうような強権化、憲法や法律の侵害・形骸化、さらには世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との陰での癒着といった横暴な政治の結果でもある。「天網恢々(てんもうかいかい)、疎(そ)にして漏らさず」という格言にもある通り、道理に反した行為は、因果応報によって、当該の主体に結果として返ってくる。

この帰結を見ると、粛然とした思いになる。私たちは、やはり自らも身を正して、徳義に基づいて行動することの重要性を再確認せざるを得ない。
 

派閥政治の行方

では、これらの派閥の解散によって自民党の派閥政治はなくなるのだろうか。先例がある。1988年に起きたリクルート事件の後、自民党は「政治改革大綱」(1989年)で派閥の解散を謳(うた)ったし、野党に転落した時(1994年)も、河野洋平総裁が派閥解消を宣言した。それにもかかわらず、いずれもその後に派閥が復活した。だからこそ今、再び派閥解散が行われたわけである。

1994年の「政治改革」による選挙制度の変更も、小選挙区制によって、派閥政治の弊害をなくすことが目的だった。それまでの中選挙区制では、自民党から同一選挙区に複数の候補が出馬することになり、そのために派閥の力が強くなっていると考えられたからだ。ところが、小選挙区制中心に改まっても派閥はなくならなかった。

このように考えると、数派閥が解散したからといって、派閥がなくなるわけではなく、いずれ復活していく可能性が高い。ただ、派閥の解散によって所属議員は、いわば行動の自由を得るから、他のグループに移動することは容易になる。そこで、当面は無派閥議員が増加するものの、その後には、派閥の再編、リーダーやメンバーの変化が生じるだろう。安倍派の場合は、複数のグループに分かれたり、そのメンバーが他の派閥に加わったりする可能性が高い。すでに福田達夫元総務会長は「新しい集団」をつくるという意向を示した(1月19日)。

このような派閥の流動化や、再編、離合集散が今後、自民党内で起こる可能性が高い。よって、日本政治は動乱期に入ったと言わざるを得ない。

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