おもかげを探して どんど晴れ(24) 文・画 笹原留似子(おもかげ復元師)
おばあちゃん、僕、大丈夫だよ
「納棺」の依頼は数日前から入ることもあれば、「今すぐに」と突然入ることもあります。さまざまな事情でおもかげをなくした方を元に戻す技術が必要な「復元納棺」の依頼も同じです。
私の技術は、亡くなられた方がただ眠っているように横になり、にっこりとほほ笑みを浮かべているのが特徴です。そのため遺(のこ)された家族は、故人に添い寝をしたり、話し掛けたりと、火葬の日まで自由に穏やかに過ごします。もちろん、私の技術だけでなく、そのために家族が一生懸命、故人の気持ちを考えて、思いを一つ一つ積み重ねてこそ成り立つ時間です。そのお手伝いは技術と特殊なコミュニケーションを組み合わせたもので、弊社の登録商標である「参加型納棺」になります。
その日、私は事務所で事務処理を行っていました。雲一つない晴天の日でした。突然電話が鳴りました。「今すぐ来てほしい」という内容でした。故人が待つ自宅までは、高速道路で向かっても1時間かかりました。
到着すると、布団が敷かれていました。通常、故人は布団に安置されています。ご家族に案内され、いつも通り布団に向かって歩いて行きました。
そこには、大人用の布団に小さな体の子どもさんが安置されていました。布団はとても大きく感じました。彼の顔は、蒼白(そうはく)でした。その特徴から、心臓の疾患であることが分かりました。筋肉が硬く変化していたことで、昨日まで元気に過ごしたこともよく分かりました。急死だったのです。硬く感じる関節の筋肉を中心にマッサージを行い、触れた時に生体と変わらない柔らかさまで戻す特殊なマッサージをしました。お手当てを進めていき、肌の状態を良好にして、血色を戻して表情がほほ笑みに変わった時でした。
「救急車で運ばれた時と同じ顔になったね」。おばあちゃんが、彼の頰をなでていました。「男前ですね」。私がそう声を掛けると、おばあちゃんが言いました。「そうでしょう。この子ね、発作を起こしたんです。心臓の……」。おばあちゃんは、彼の頭をなでながら話してくれました。「救急車で運ばれる時ね、この子、言ったの。今と同じ笑顔でね……。『おばあちゃん、僕、大丈夫だよ。病院に行けば先生も居るし、心配いらないよ。僕、ちゃんと、おばあちゃんのところに帰って来るからね』。そう私に声を掛けて、救急車に乗りました。今ね、ほんとにね、私のところに帰って来てくれた」。
おばあちゃんは、目に涙をいっぱい溜(た)めていました。お母さんが布団のそばまでゆっくり歩いて来ました。そして、静かに座り、彼を見つめていました。