男たちの介護――(9) 小谷正臣さんの体験を読んで 津止正敏・立命館大学教授

ケアとは、人をいとおしむ心 “care”が紡ぐコミュニティー

夫婦で共に手をとり合い、障害のある娘さんを支えながらも「穏やかな」暮らしにあった家族団欒(だんらん)が、奥さまの脳内出血という異変によってきしんでいく。さらには娘さんも子宮体がんに侵され、懸命の看護の末、46歳の生涯を終える――小谷正臣さん(77)=仮名=の壮絶な介護生活を綴(つづ)ったのが今回の『男たちの介護(7、8回)』でした。夫婦は「異体同心」、つらくとも前を向いて生き抜こうという小谷さんから教えられたことを記し、私のコメントに代えたいと思います。

一つは、障害のある人と暮らす老親の課題、いわゆる「老障介護」というテーマです。私は、ずいぶん以前に同テーマの報道番組を視聴する機会がありました(NHK総合 特報首都圏「“老障介護”いま何が必要か」=2011年5月13日放送)。障害者の共同作業所づくり運動を進めてきた社会福祉法人「きょうされん」が2010年に実施した「家族の介護状況と負担についての緊急調査」を素材に、高齢化する障害者とその家族の暮らしを追った真摯(しんし)な報道でした。脳性まひで全介助が必要な息子(44歳)を介護する母親(79歳)。行政から月40時間保障されているホームヘルプサービスを「申し訳ないから自分ができる間は自分で」と使い切ることなく、「40になっても息子はかわいい」と日中のほとんどを息子の介護に明け暮れていました。「この子を一人残しては死ねない。でも長生きしてほしい」という小谷さんの思いに重なり、胸がつぶれる思いがします。