文芸評論家の黒古氏が『原発文学史・論』(社会評論社)を出版

本紙デジタルで『「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年』を連載する、文芸評論家の黒古一夫氏がこのほど、『原発文学史・論――絶望的な「核(原発)」状況に抗して』(社会評論社)を出版しました。

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2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故は、自然界に放射性物質を拡散させ、周辺地域に甚大な被害を及ぼした。事故から7年が経った今でも数万人規模の人々が福島県外に避難し、県内の農業や観光業などに深刻な影響を与えた。

一方、現在、政府は原子力発電を国の重要な「ベースロード電源」と位置付け、原発の存続の方針を示している。また、原子力規制委員会の審査に合格した発電所の再稼働も続いている。

広島や長崎への原爆投下を経験し、核の恐ろしさを思い知った日本がなぜ、福島の原発事故を経験したにもかかわらず、原発の再稼動や老朽原発の運転延長を急ぐのか――本書では、その疑念に答える「真の理由」を、原爆や原発事故を主題とする文学作品から探っている。

核兵器の脅威のみならず、福島第一原発事故前から原発の危険性を挙げ反対の姿勢を示してきた一人としてノーベル文学賞作家の大江健三郎氏をはじめとした反核の文豪たちの主張を分析。このほか、特に事故後に反核を謳(うた)いながらも、論調の奥に原発を容認する姿勢をにじませる作家の文章や発言も抽出し、原発に関する文学の歴史や時代性を細かく読み解いている。

戦後、核兵器反対の声が多い中で、「原子力の平和利用」の名の下に原子力発電所が各地につくられてきた。著者は、使用済み核燃料の処理を経て、日本が現在、核兵器に転用できるプルトニウムを大量に保持していることに大きな疑念を持ち、国家の覇権に結び付けようとしているのではないかと指摘する。その上で、こうした核にまつわる状況について、作家や文学者たちはどのように意識してきたのかをまとめ、時代を捉える「文学の役割」について論述する。

唯一の被爆国であり、大きな原発事故を経験した国の民としての読者に、「原発の在り様と私たちとの関係について考えていただければ」と著者は願う。

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『原発文学史・論――絶望的な「核(原発)」状況に抗して』
黒古一夫著
社会評論社
2700円(税別)

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