地域の非営利団体に協力する「一食地域貢献プロジェクト」(11) 障害者の就労事業所「スマイルコーン」(津教会が支援)

年間を通じ、事業所周辺に点在する畑で農作業にいそしむ通所者たち。モロヘイヤ畑では夏に最盛期を迎えた

情熱を込めて通所者に農業技術伝える

築百年を超える古民家には、午前9時半を過ぎると青年らが次々と集まってくる。一般社団法人「一志パラサポート協会」が運営する障害者の就労事業所「スマイルコーン」は、農地が広がる自然豊かな町の一角にある。三重県津市榊原町で平成27年に開設され、知的・精神的な障害のある18歳から65歳までの14人が通所し、農作業などにいそしんでいる。

害虫や環境の変化に強い作物を生産するほか、オーガニックコットンの栽培、野草茶の加工、販売など、年間を通じて生産活動を展開している。

畑へ出掛ける身支度を整えた通所者を大窪久美子代表理事(61)が笑顔で送り出す。今、畑で育てているのは、ミョウガ、ズイキ、モロヘイヤなどだ。

「長さをそろえて切りましょう」。職員がそう呼び掛けると、全員で一斉に収穫期を迎えたモロヘイヤの茎をはさみで丁寧に切る。収穫を始めて20分で農業用コンテナがいっぱいになった。農薬を使わず、高品質で安心安全な作物は、地域の人々から好評を得ている。

「作物を畑に毎日見に行く習慣をつくり、観察眼を養うことが大事。一人前の農業従事者になって事業所を巣立ってほしい」。そう語るのは、創設者の川原田憲夫さん(73)。自身が管理する「川原田農園」の農地の一部をスマイルコーンに提供し、通所者たちに農業技術を伝授している。川原田さんは60歳の時、脊髄に菌が入ったことが原因で肢体不自由となり、車椅子生活を余儀なくされたが、農業を続けた。

夕暮れ時、「帰る時間ですよ」と職員が声を掛けると、通所者の一人の女性(19)が川原田さんの車椅子のグリップを握ってゆっくりと押した。事業所へと続く畑の間の道を皆で並んで歩く。「温かい空気に包まれる時」と川原田さんは穏やかにほほ笑む。通所者たちは、川原田さんと大窪代表理事をそれぞれ「お父さん」「お母さん」と呼んでいる。

「生きがいと喜びを持って日本の農業を守り続けてほしい。そのために、自分の持てる技術を余すことなく伝えたい」。スマイルコーンには、川原田さんの情熱と心意気が息づいている。