「発達障害啓発週間」特集 誤解や偏見をなくし、共に生きる社会へ(2)上
発達障害への理解を深め、共に生きる社会を目指すため、「発達障害啓発週間(4月2~8日)」に合わせてスタートした、3回にわたる本特集。第2回は、発達障害のある子供を育てた二人の母親の体験を紹介する。さらに、立正佼成会で教会長を務め、発達障害のある人と多く関わりを重ねた須田安希子氏に、全ての人の人格と個性が尊ばれるために必要なことは何かを聞いた。
(「体験」の登場者は仮名です)
子供は何も変わらなくてもいい
永山佑季子さん(51)が、長男・勇也さん(21)と周りの子供たちの行動が違うと感じ始めたのは、勇也さんが小学4年生の頃だった。勇也さんは幼稚園時代から物事へのこだわりが強く、紙で作った衣装を人形に着せ、少しでもずれるとかんしゃくを起こし、自らのズボンが落ちてこないように何度も引き上げていた。小学校入学後は、クラスメートとコミュニケーションを取るのが苦手で、友達からからかわれることがあると、激高するなどの傾向が見られた。
永山さんは、この傾向は成長過程の一過性のもので、次第に収まると考えていた。しかし、授業中に席を立ち、いたずらばかりしていた周囲の児童が落ち着き始めても勇也さんは収まらず、授業中に友達に暴力を振るうなどの行動が続いた。
勇也さんが学校で問題を起こすたび、永山さんは呼び出され、校長や副校長、担任などと話し合いを重ねた。〈この子はどうして、人に迷惑ばかりかけるのか〉。わが子を責めたくもあったが、自宅では、頭ごなしに叱らず、胸の内を聞くように努めた。それでも、勇也さんの態度は変わらず、年中、同級生宅を謝罪に訪れていた。
〈将来、通行人と肩が触れただけで、相手を殺してしまうかもしれない〉。そんな思いを抱きつつ、しかし、何が原因なのかも分からずに悩んでいた時、担任の教諭から思いがけない言葉を聞かされた。永山さんは、「その時に初めて、『発達障害』について知りました。一瞬、障害が原因ならいいなと思いました。でもすぐに、本当ならどうしようと、不安に襲われました」と振り返る。
後日、クリニックを訪れると、「広汎性発達障害」と診断された。広汎性発達障害とは、対人関係やコミュニケーションが苦手で、こだわりが強く、感覚が過敏といった特徴がある。
永山さんにとって、「障害」という言葉は非常に重く感じられた。どう接すればいいのかと考えていた矢先、担当医師が語りかけた。
「子供は何も変わらなくてもいいのですよ。周囲が本人を理解することを大切にしてください」
わが子を変えるのではなく、ありのままを受け入れ、自分たちが合わせていく――その意識の切り替えが必要だと永山さんは思ったという。勇也さんは感情を言葉で表現することが苦手で、そのいら立ちから突飛な行動に出てしまう。永山さんはまず、こうした特徴を理解し、丁寧に触れ合おうと心がけた。