【特別インタビュー 第39回庭野平和賞受賞者 マイケル・ラプスレー師】 傷ついた人々を癒す――自身の悲劇をきっかけに「治癒者」として

心情を打ち明け、皆で傾聴する「記憶の癒し」ワークショップ

ラプスレー師 ©Father Michael Lapsley,SSM

庭野 暴力、そして差別や抑圧が人にもたらす心の傷とは大変なものだと感じます。

ラプスレー 暴力によってもたらされる恐怖心や、かけがえのないものを奪われた悲しみは心に深い傷を残します。

また、差別や抑圧も、人の尊厳を否定し、自尊心を傷つける暴力です。被害者は「自分には価値がない」と思い込むようになり、自分を愛することや、人生を肯定することが難しくなってしまいます。特に家庭で虐待を受けた子供は「自分は愛されていない」と思い、心に深い傷を負います。

心の傷はすぐに治るものではありません。ただし、回復に向けて大きな転機になるものがあります。それは、当事者が抱えている痛みを安心して打ち明けることができる場と、その声を親身に聴いて、心から理解してくれる、励ましてくれる人たちとの出会いです。そうした環境が備わると、当事者は「自分は一人ではない。思いを寄せてくれる仲間がいる」と実感でき、精神的苦痛が少しずつ癒されていきます。

庭野 「記憶の癒し」ワークショップはどのように行われるのですか。

ラプスレー ワークショップは2日半の日程で泊まり込みで行います。参加者は20~25人です。それぞれが自身の人生や心情を打ち明け、それを皆で傾聴し、理解を深め合います。ここで聞いた話は本人の許可がない限り他言しないことが基本ルールです。また、自己との対面、発表や分かち合いがよりよく進むよう、参加者5、6人に1人の割合で支援役のファシリテーターが付きます。

初日は、コミュニティーづくりを兼ねたプログラム構成です。参加者はまず10分ほどのドラマを観賞するのですが、これが気持ちを解放するきっかけになります。参加者は過去を振り返り、自らの心情と向き合います。ファシリテーターが質問を投げかけることで、まだ癒されていない心の傷にも気づいていきます。

2日目には、これまでの人生を絵に描き、それを使って、歩んできた自らの物語を発表します。他の参加者は耳を傾け、時には発表者が楽に話せるように励ましたり、サポートしたりします。互いに支え、励まし合うというプロセスを経ることで、参加者は安心して抱えてきた憎しみや復讐心(ふくしゅうしん)、人への嫌悪感といった負の感情を吐き出すことができます。いわばデトックス(解毒)効果です。それぞれの気持ちが軽くなった夜はパーティーで楽しく交流します。

最終日は、粘土を渡し、平和のシンボルをつくってもらいます。各人が思っている精神的な平和のシンボルを目に見える形にするのです。これは、互いを知る、自分を深く見つめることにつながります。その後にセレモニーを行い、互いの理解がさらに深まって終了になります。

ワークショップは、心の傷や苦を抱えた人に、「孤独ではないこと」「自分は変わることができること」「人生を一歩前に進めることができること」を実感してもらえるようにと願って開催してきました。実際、多くの人にとって、主体的に人生を歩み出す転機になっていると感じています。

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