『何を目指す日本再生か? 今を生きる佼成壮年の役割』 日本総研会長・寺島実郎氏 令和2年次「壮年(ダーナ)総会」の講演から
社会構造の変化とコロナ問題
次に、コロナウイルス問題の背後にある日本の経済構造を考えてみます。世界全体のGDP(国内総生産)に占める日本の割合は、1988年の16%から、2018年には6%まで落ち込んでいます。「日本の埋没」ともいえるこの傾向は、特にこの10年で加速しています。
戦後日本の基幹産業だった鉄鋼、エレクトロニクス、自動車などの産業に陰りが見え始め、就業者は、「ものづくり国家日本」の柱だった製造業、建設業から、広義のサービス業へとシフトしつつあります。就業者の平均収入が下がり、非正規雇用の増加もあって、年収200万円未満の「ワーキングプア」といわれる人々が増えています。「格差と貧困」が日本でもこの10年で急速に進行しているのです。
このような社会構造の変化の中で、今回のコロナウイルスの問題が起こりました。自粛ムードが高まり、宿泊業、飲食業に従事する人たちや、非正規雇用者などがたちまち職を失って、「貧困」へと転がり落ちています。その一方で、投機的なマネーゲームにより、さらに経済格差が広がるという不条理が進行しているのです。これまで日本が抱え込んでいた問題や、その背後にある経済構造の変化をコロナ禍が炙(あぶ)り出したといえます。
さて、NHKの「日本人の意識」調査によると、日本人の宗教意識はこの40年で希薄になりつつあります。戦後の日本人は、繁栄こそが幸せと平和をもたらすと信じ、とにかく経済を豊かにしようとして走り続けてきました。
その結果、世の中に「不満」を持つ人は少なくなったものの、「不安」を抱える人が増えました。現代の人々の価値観は、「イマ・ココ・ワタシ」という言葉で表せると思います。つまり、明日や未来のことより「イマ」が、世界がどうなろうと「ココ」が、そして、誰よりも「ワタシ」が大事だということです。
戦後、日本は大きくパラダイムを変え、新しい局面に入りました。戦争に敗れて打ちひしがれ、それまでの価値観を否定されたような当時の状況の中で、佼成会の庭野日敬開祖は人々の思考回路を立て直すことに努力されました。それは、今の時代に通じるものがあると思います。
釈迦は、人間の苦を克服するため、深く自分の心を見つめ、内省しました。内なる自己を探求したのです。釈迦の仏教はその後、時代の求めに応じて大乗仏教という衆生救済の仏教へと変わっていきます。仏教者はこれまで、釈迦の原点に返りつつ、一方で、社会の抱える問題に目を向ける努力をしてきました。その意味で、釈迦の真意を明らかにしながら、仏教の新しいパラダイムを目指した庭野開祖の気持ちがとてもよく理解できるのです。